放課後、僕は自転車を走らせていた。
急げ、急げと、自分に言葉の鞭を打つ。
向かっている場所は病院。
なぜ病院に向かっているかというと、
美香からとあるメールが送られてきたからだ。
その内容は、『由美が事故に遭った』
というものだった。
全速力で自転車を漕いだおかげか、
ものの5分で病院に着いた。
僕は自転車を駐輪場に置き去り、病院に駆け込む。
受け付けの方に由美の病室を聞いて、再び走る。
僕は体力がないので、とうの昔にばてているが、
そんなことは気にならなかった。
由美の病室の前に来て、ゆっくりと扉を開ける。
そこには、ベッドに横になっている由美と、
由美の手を優しく包み込む拓実の姿があった。
僕のその問いに、拓実は僅かに
嗚咽の混ざった言葉を返す。
…僕は言葉が出なかった。
おそらく、死ぬことはないのだろう。
だが、後遺症が残るかもしれない。
それは、拓実の不安を煽るには
十分すぎる事実だった。
僕自身も落ち着く時間が欲しかったので、
頼まれた通り由美の病室を出る。
その数秒後、誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。
誰の声かは、言うまでもないだろう。
その声を背に、僕は病室から逃げた。
病院を出たところで、美香と出会った。
美香は、僕の顔を見るとすぐに声をかけてくれた。
作り笑いを美香に見せるが、美香は納得しなかった。
不満があるような顔を作っている。
何が言いたいのかを察した僕は、
足早にその場を去る。
また、美香とのすれ違いを生んでしまった。
最近はすれ違いばかりだ。こんなことなら…。
いや、そんな考えを持つな。
僕は美香といて楽しいんだ。
そう自分に言い聞かせながら、僕はゆっくりと歩く。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!