第14話

14話
194
2021/05/05 00:00
放課後、僕は自転車を走らせていた。

急げ、急げと、自分に言葉の鞭を打つ。

向かっている場所は病院。

なぜ病院に向かっているかというと、
美香からとあるメールが送られてきたからだ。

その内容は、『由美が事故に遭った』
というものだった。
全速力で自転車を漕いだおかげか、
ものの5分で病院に着いた。

僕は自転車を駐輪場に置き去り、病院に駆け込む。

受け付けの方に由美の病室を聞いて、再び走る。

僕は体力がないので、とうの昔にばてているが、
そんなことは気にならなかった。

由美の病室の前に来て、ゆっくりと扉を開ける。

そこには、ベッドに横になっている由美と、
由美の手を優しく包み込む拓実の姿があった。
ルイ
拓実、由美の容態は?
僕のその問いに、拓実は僅かに
嗚咽の混ざった言葉を返す。
拓実(たくみ)
…今は治療も終わって、
安全な状態らしい。
でも、頭部への衝撃が
思ったよりも大きくて
…起きたとしても…後遺症が
残るかもしれないらしい…。
…僕は言葉が出なかった。

おそらく、死ぬことはないのだろう。

だが、後遺症が残るかもしれない。

それは、拓実の不安を煽るには
十分すぎる事実だった。
拓実(たくみ)
悪い、少し席を外してくれないか?
ルイ
…わかった。
僕自身も落ち着く時間が欲しかったので、
頼まれた通り由美の病室を出る。

その数秒後、誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。

誰の声かは、言うまでもないだろう。

その声を背に、僕は病室から逃げた。
美香(みか)
どうしたの?
病院を出たところで、美香と出会った。

美香は、僕の顔を見るとすぐに声をかけてくれた。
ルイ
大丈夫、なんでもないよ。
美香(みか)
嘘だ。ルイが大丈夫って言うときは
いつもルイが傷ついてるときだもん。
ルイ
傷ついてる…確かにそうかもしれない。
だけど、僕以上に傷ついてる人が
いるんだから、僕は大丈夫だよ。
作り笑いを美香に見せるが、美香は納得しなかった。

不満があるような顔を作っている。

何が言いたいのかを察した僕は、
足早にその場を去る。

また、美香とのすれ違いを生んでしまった。

最近はすれ違いばかりだ。こんなことなら…。

いや、そんな考えを持つな。

僕は美香といて楽しいんだ。

そう自分に言い聞かせながら、僕はゆっくりと歩く。

プリ小説オーディオドラマ