美香が見えていない。
そんなことが、信じられるわけがない。
だが、そう考えると全てのことに納得がいく。
美香が僕から離れようとしたのは、
僕に忘れられるのが怖かったからだ。
目の前の警官が「君達」ではなく「君」と言った
のは、美香が見えていないからだ。
信じたくなんてない。
美香が、忘れられているなんて。
そんなの、現代科学では
証明できるわけがない怪奇現象だ。
だが、僕の考えを、思いを否定するかのように、
警官は美香の横を通り過ぎ、
僕のところへ向かってくる。
どうすればいい?
どうするのが正解だ?
考える暇もなく、警官は近づいてくる。
それに比例するかのように、
美香は僕から遠ざかっていく。
待ってくれ。
止まってくれ。
もし美香がいなくなったら、
僕はどうやって生きていけばいいんだ。
美香を…あなたを忘れゆく、この世界で……。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!