静かに、僕はそう伝えた。
言葉が出ない。
適切な言葉が思いつかない。
なぜだ。なぜ僕は美香を
放っておくことができないんだ?
美香が放っておいてくれと頼んでいるのに。
いや…答えはわかっている。
そう、美香のことを放って置けないのも、
美香に答えを求めてしまうのも、
全て僕が我儘だからだ。
言葉を続けようとしたとき、声が響いた。
それは僕のものでも、美香のものでもなかった。
振り向くと、そこには警官らしき男。
今は7時前。
歩道される時間なのか?
警官は僕たちに近づいてくる。
僕の直感が訴えてくる。
「逃げろ」と。
僕はそう言って走り出そうとしたが、
美香は動かない。
警官は僕を追ってくる。
待て。何かおかしい。
警官はさっきなんて言った?
「君」、そう言った。
君達ではなく、「君」と。
しかも、警官は美香に目もくれず僕に向かってくる。
まさか……
美香が、見えていない………?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。