美香が、どんどんと見えなくなっていく。
止まって欲しい。
戻ってきて欲しい。
だけど、そんな願いは叶わない。
何が原因だ?
何が悪かった?
僕は、ただいつも通りの日常を
過ごしていたかっただけなのに。
なのに、どうしてこんなことになった。
行き場のない怒りが込み上げてくる。
拓実や由美はどうなのだろう。
美香のことを、覚えているのだろうか。
美香のことが、見えるのだろうか。
そうこうしているうちに、
警官が目の前に来ていた。
うるさい。
黙れ。
僕の邪魔をするな。
お前がいなければ、美香と話し合うことができた。
美香を救うことができたかもしれない。
八つ当たりだってことは分かっている。
でも、そう考えてしまう。
その時、
後ろから、声が聞こえた。
振り返ると、そこには拓実と由美。
さらに、拓実の父親がいた。
由美が無事に退院できたことを知って、
安堵の息が出た。
警官がその場を去ると、拓実が僕に囁いた。
その言葉に、僕は戸惑いを隠せなかった。
なんで拓実が知っているんだ?
いや、それよりも、拓実は美香を覚えている。
そのことがすごく嬉しくて、
僕は、涙を流していた。
次の瞬間、僕は走り出していた。
脳で判断するよりも先に、体が動いていた。
待ってくれ、美香。
僕はまだ、美香に伝えないと
いけないことがあるんだ…………。
あれから、どれだけ走っただろう。
10分、20分、それ以上に走っているかもしれない。
だが、それでも美香は見つからなかった。
不安になる。
事故に遭ってるんじゃないか?
事件に巻き込まれたんじゃないか?
色々な不安が、恐怖を煽る。
刹那、僕は彼女を見つけた。
見つけてしまった。
赤い水たまりに浮かぶ、彼女の姿を。
美香は血を流して倒れているというのに、
誰も美香を助けようとしない。
あまりの怒りに殴りかかろうとした時、
僕は思い出した。
美香は、みんなには見えていないことに。
僕はすぐさま美香に駆け寄る。
息はしてるし、心臓も動いている。
だが、明らかに出血が多すぎる。
病院に行ってもダメだろう。
どうすればいい?
必死に考えていた時、声がした。
どこから?なんて、考える必要がない。
それは、美香の声だ。
美香は、恐らく黙らないのだろう。
僕でもわかる。
美香が……死んでしまうことが。
だったら、最期は、最期くらいは……。
ありのままの気持ちを、伝えよう。
溢れ出そうになる涙を堪えて、
なんとか言葉を紡ぐ。
そう言って、僕の手から……美香の重みが消えた。
握っていた手が……解かれた。
大粒の涙が溢れでる。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。