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第19話

最終話
115
2021/07/29 00:00
美香が、どんどんと見えなくなっていく。

止まって欲しい。

戻ってきて欲しい。

だけど、そんな願いは叶わない。

何が原因だ?

何が悪かった?

僕は、ただいつも通りの日常を
過ごしていたかっただけなのに。

なのに、どうしてこんなことになった。

行き場のない怒りが込み上げてくる。

拓実や由美はどうなのだろう。

美香のことを、覚えているのだろうか。

美香のことが、見えるのだろうか。

そうこうしているうちに、
警官が目の前に来ていた。
警官
君、こんな時間に
どうして外にいるんだ。
うるさい。

黙れ。

僕の邪魔をするな。

お前がいなければ、美香と話し合うことができた。

美香を救うことができたかもしれない。

八つ当たりだってことは分かっている。

でも、そう考えてしまう。

その時、
拓実(たくみ)
ルイー!
後ろから、声が聞こえた。

振り返ると、そこには拓実と由美。

さらに、拓実の父親がいた。

由美が無事に退院できたことを知って、
安堵の息が出た。
拓実の父親
すみません。この子は私の連れでして。
警官
そうですか。次からは
気をつけてくださいね。
最近は事故も増えてきましたので。
拓実の父親
はい。ありがとうございました。
警官がその場を去ると、拓実が僕に囁いた。
拓実(たくみ)
何かあったんだろ?
多分……美香のことで。
その言葉に、僕は戸惑いを隠せなかった。

なんで拓実が知っているんだ?

いや、それよりも、拓実は美香を覚えている。

そのことがすごく嬉しくて、
僕は、涙を流していた。
拓実(たくみ)
大丈夫か?
ルイ
ああ、大丈夫だ。
拓実(たくみ)
ルイ、俺は何があったのかは知らない。
これっぽっちもわからない。
だから、俺が言えるのはこれだけだ。
美香を探しに行け。
そして、救ってこい。
次の瞬間、僕は走り出していた。

脳で判断するよりも先に、体が動いていた。

待ってくれ、美香。

僕はまだ、美香に伝えないと
いけないことがあるんだ…………。




















拓実(たくみ)
……行ったか。
由美(ゆみ)
全く、格好つけちゃって。
拓実(たくみ)
いいだろ?それくらい。
由美(ゆみ)
まあ、格好良かったからいいけど……。
拓実(たくみ)
へ〜、格好良かったんだ〜。
由美(ゆみ)
わ!悪いの!?
拓実(たくみ)
悪くないよ。嬉しい。
由美(ゆみ)
……ならいいけど。
拓実の父親
……俺の前でイチャイチャすんなよ。

























あれから、どれだけ走っただろう。

10分、20分、それ以上に走っているかもしれない。

だが、それでも美香は見つからなかった。
ルイ
どこ行ったんだよ……。
不安になる。

事故に遭ってるんじゃないか?

事件に巻き込まれたんじゃないか?

色々な不安が、恐怖を煽る。

刹那、僕は彼女を見つけた。

見つけてしまった。

赤い水たまりに浮かぶ、彼女の姿を。
ルイ
………み……か…………?
美香は血を流して倒れているというのに、
誰も美香を助けようとしない。

あまりの怒りに殴りかかろうとした時、
僕は思い出した。

美香は、みんなには見えていないことに。

僕はすぐさま美香に駆け寄る。

息はしてるし、心臓も動いている。

だが、明らかに出血が多すぎる。

病院に行ってもダメだろう。

どうすればいい?

必死に考えていた時、声がした。

どこから?なんて、考える必要がない。

それは、美香の声だ。
美香(みか)
……ルイ?
ルイ
美香!大丈夫か!?
大丈夫なわけないよな。
待ってろ、すぐに助けてやるから。
美香(みか)
……ごめ…んね。
ルイ
ごめんって、なんで謝るんだよ。
美香(みか)
……私、怖かったの。
ルイが……私のこと……を、
忘れるのが……。
ルイ
もういい!喋るな!出血が酷くなる!
美香(みか)
あはは……もうダメ…だよ。
自分のことは……よくわかる。
ルイ
何言ってんだよ!まだ大丈夫!
まだ生きれる!
美香(みか)
……ねぇ、ルイ。
わ…たしね、ルイのことが…大好き。
ずっと前……から…好きだった。
美香は、恐らく黙らないのだろう。

僕でもわかる。

美香が……死んでしまうことが。

だったら、最期は、最期くらいは……。
ルイ
僕も……大好きだよ。
ありのままの気持ちを、伝えよう。
美香(みか)
…………やったね。
私たち……両思いじゃん……。
ルイ
……うん。
溢れ出そうになる涙を堪えて、
なんとか言葉を紡ぐ。
美香(みか)
…………実はね、拓実……との会話…
聞いて……たんだ。
私……を…救ってくれようと……
したん…だよね?
…ありがとう。
ルイが…好きっていっ…てくれて、
わ…たし、救われた‥よ。
だから……最期…に…いう…ね。
……愛してる…。
そう言って、僕の手から……美香の重みが消えた。

握っていた手が……解かれた。
ルイ
僕も……愛してるよ。
今も、昔も、これからも。
僕は、美香を忘れない。
大粒の涙が溢れでる。
ルイ
さようなら、美香。
僕は生きていくよ。美香の分まで。
あなたを忘れゆく、この世界の中で…。

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