ゼノスは、
玉座の背にもたれかかることなく、
ただ静かに立ったまま視線を巡らせた。
それだけで空間の空気が、薄く張りつめていく。
紫の瞳が、
逃がさない距離でまっすぐ元貴たちを捉える。
あまりにも単純で、あまりにも重い一言だった。
若井と涼ちゃんが、同時に息を詰める。
元貴は一瞬だけ視線を落とし、
喉の奥で言葉を探すように黙った。
思い出すのは、呼び出された瞬間の感覚。
選択肢のない命令。
“人間”として扱われなかった空気。
小さく、しかしはっきりとした声だった。
迷いはもう残っていない。
ゼノスはその返答を、
急かすことも否定することもなく受け取った。
ふっと肩の力を抜くような声。
軽い調子なのに、
その奥にはちゃんと安堵が混ざっていた。
ノクスが小さく目を伏せる。
ガルドが腕を組んで頷く。
ゼノスは軽く手を上げて話を戻す。
少しだけ首を傾ける。
声は穏やかだった。だからこそ逆に逃げ場がない。
淡々とした肯定。
ノクスが静かに補足する。
珍しく真面目な声で前に出る。
静かに言葉が落ちる。
空気が少しだけ重くなる。
ゼノスの視線が、元貴へ向く。
ノクスが小さく息を吐く。
言葉は冷たくない。ただ、正確すぎる。
元貴は思わず自分の手を見下ろす。
即答だった。
その言葉に、隣のアークがわずかに反応する。
ゼノスは小さく息を吐き、軽く肩をすくめた。
一瞬だけ、空気が静まる。
元貴はゆっくり息を吸ってから、小さく頷いた。
その返事に、ゼノスは満足そうに目を細めた。
広間の空気が、
ほんの少しだけ静かになる。
アークは腕を組んだまま、
ふっと鼻を鳴らした。
あまりにも簡単に言う。
けれど——
ノクスは、
その横でわずかに目を細めた。
その単語に、
元貴の眉がぴくりと動く。
少しだけ口角が上がる。
アークは、
ゆっくり元貴へ視線を向けた。
黒の瞳が、
静かに細められる。
一瞬だけ、
言葉が柔らかく落ちる。
そう言い返しながらも。
元貴の指先は、
無意識みたいに、
そっと自分の胸元を押さえていた。
そこにいる熱を、
確かめるみたいに。
※この物語はフィクションです。



















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。