第62話

魔王の前で交わした約束。
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2026/06/17 17:53 更新
ゼノスは、

玉座の背にもたれかかることなく、

ただ静かに立ったまま視線を巡らせた。


それだけで空間の空気が、薄く張りつめていく。
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
まず確認したいんだけど
紫の瞳が、 

逃がさない距離でまっすぐ元貴たちを捉える。
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
君たち、インロルシヤへ戻る気ある?
あまりにも単純で、あまりにも重い一言だった。


若井と涼ちゃんが、同時に息を詰める。


元貴は一瞬だけ視線を落とし、

喉の奥で言葉を探すように黙った。


思い出すのは、呼び出された瞬間の感覚。

選択肢のない命令。

“人間”として扱われなかった空気。
大森 元貴
大森 元貴
……ないです、絶対に
小さく、しかしはっきりとした声だった。

迷いはもう残っていない。
若井 滉斗
若井 滉斗
俺も無理
藤澤 涼架
藤澤 涼架
……僕も、戻りたくないです

ゼノスはその返答を、

急かすことも否定することもなく受け取った。
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
だよね〜
ふっと肩の力を抜くような声。
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
戻りたいって言われたら
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
どうしようかと思ってた
軽い調子なのに、 

その奥にはちゃんと安堵が混ざっていた。


ノクスが小さく目を伏せる。
ノクス・ヴェイル
ノクス・ヴェイル
ゼノス様でも、
ノクス・ヴェイル
ノクス・ヴェイル
その可能性は考慮されるのですね
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
そりゃそうでしょ
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
本人の意思が一番大事だし

ガルドが腕を組んで頷く。
ガルド・レックス
ガルド・レックス
おお!ゼノス様がまともなこと言ってる!
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
今のは褒めてないよね?
ガルド・レックス
ガルド・レックス
褒めてます!!
大森 元貴
大森 元貴
雑な信頼の置き方すんな
若井 滉斗
若井 滉斗
この空気で漫才入るのやめてくれる?

ゼノスは軽く手を上げて話を戻す。
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
じゃあ次

少しだけ首を傾ける。
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
この国で生きる覚悟、ある?
大森 元貴
大森 元貴
覚悟……?
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
そう
声は穏やかだった。だからこそ逆に逃げ場がない。
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
ここは優しい国だけど、外はそうじゃない
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
魔物は普通にいるし、
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
他種族も平気で人間を利用する

ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
見つけたら殺す、食べる、奪う……
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
そういうのが当たり前の場所もある
藤澤 涼架
藤澤 涼架
……そんなの、現実なんですか
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
現実だよ

淡々とした肯定。
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
だから君たちみたいな存在は、
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
むしろ危険視される
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
力があるからじゃない
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
“制御できる保証がないから”だ

ノクスが静かに補足する。
ノクス・ヴェイル
ノクス・ヴェイル
この国では、力そのものより“扱い方”が重要視されます
ノクス・ヴェイル
ノクス・ヴェイル
暴走は即、災厄と見なされるためです

ガルド・レックス
ガルド・レックス
でもさ

珍しく真面目な声で前に出る。
ガルド・レックス
ガルド・レックス
こいつら、そういうタイプじゃねぇぞ?
ガルド・レックス
ガルド・レックス
元貴とか、めっちゃビビりだし!
ガルド・レックス
ガルド・レックス
特に若井がびびってたな!!
ガルド・レックス
ガルド・レックス
俺が襲った時尻尾巻いて
逃げてばっかだった!
大森 元貴
大森 元貴
フォローになってないんだけど
若井 滉斗
若井 滉斗
俺もついでに弱い扱いされた
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
その“今の状態”はね

静かに言葉が落ちる。
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
過去の保証にはならない
空気が少しだけ重くなる。

ゼノスの視線が、元貴へ向く。
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
特に君
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
大聖霊アグニと、闇の魔神ゼルヴァン
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
二つの“悪”を内側に抱えてる

ノクスが小さく息を吐く。
ノクス・ヴェイル
ノクス・ヴェイル
事実としては、否定できませんね
大森 元貴
大森 元貴
いや直球すぎませんか?
若井 滉斗
若井 滉斗
急にラスボス候補扱いされてるんだけど
藤澤 涼架
藤澤 涼架
本人が一番困惑してるやつだよそれ
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
でも、正直、一番危ないのは君だよ

言葉は冷たくない。ただ、正確すぎる。
大森 元貴
大森 元貴
僕ですか?
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
うん
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
力じゃなくて、“暴発した時の規模”の話ね

元貴は思わず自分の手を見下ろす。
大森 元貴
大森 元貴
なんですかそれ……最悪すぎるって
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
…確かに、笑

即答だった。
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
でも安心して
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
僕とアークがいる限りは、
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
基本どうにかなる
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
………

その言葉に、隣のアークがわずかに反応する。
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
ただし
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
アークの魔素は少しずつ外に抜けてくよ
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……気づいてます
大森 元貴
大森 元貴
え、それって、
大森 元貴
大森 元貴
アーク自身が危ないって事ですよね
ノクス・ヴェイル
ノクス・ヴェイル
放置すれば問題になりますが、
ノクス・ヴェイル
ノクス・ヴェイル
現時点では制御圏内です
ガルド・レックス
ガルド・レックス
つまりセーフだな!
若井 滉斗
若井 滉斗
ガルドさんのセーフ基準ゆるすぎるって

ゼノスは小さく息を吐き、軽く肩をすくめた。
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
まぁ結論としては
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
ここで生きるなら
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
暴れないこと、これだけは約束してね
一瞬だけ、空気が静まる。

元貴はゆっくり息を吸ってから、小さく頷いた。
大森 元貴
大森 元貴
了解です………。
その返事に、ゼノスは満足そうに目を細めた。
大森 元貴
大森 元貴
でも、アークの魔素、無くなったら……
大森 元貴
大森 元貴
どうなるの?
広間の空気が、

ほんの少しだけ静かになる。


アークは腕を組んだまま、 

ふっと鼻を鳴らした。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
寝れば回復する
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
それだけだ

あまりにも簡単に言う。


けれど——


ノクスは、

その横でわずかに目を細めた。
ノクス・ヴェイル
ノクス・ヴェイル
……とはいえ
ノクス・ヴェイル
ノクス・ヴェイル
厄介なのは、魔素欠乏による発熱だね
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
うん、精霊王クラスともなれば、
単なる熱では済まない
ゼノス・アルカディア
ゼノス・アルカディア
魔力循環そのものが乱れるから、
身体への負荷も大きい
大森 元貴
大森 元貴
熱……?
その単語に、

元貴の眉がぴくりと動く。
ガルド・レックス
ガルド・レックス
でも天導精霊王だぞ!?
ガルド・レックス
ガルド・レックス
アークなら大丈夫だろ!!

アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
……ふん

少しだけ口角が上がる。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
珍しく正確なことを言ったな、ガルド
ガルド・レックス
ガルド・レックス
珍しくってなんだよ!!
若井 滉斗
若井 滉斗
そこ褒められてんのか?
藤澤 涼架
藤澤 涼架
限りなく悪口寄りだけどね

アークは、

ゆっくり元貴へ視線を向けた。


黒の瞳が、

静かに細められる。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
心配しなくとも、死にはしない
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
主人のためなら——

一瞬だけ、

言葉が柔らかく落ちる。
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
それぐらい……出来なきゃ
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
(……オレなりの償いとは言えねぇ)
若井 滉斗
若井 滉斗
………っ
若井 滉斗
若井 滉斗
かっけぇっす、アークさん
藤澤 涼架
藤澤 涼架
これは惚れる
藤澤 涼架
藤澤 涼架
めちゃくちゃ心強いじゃん……
大森 元貴
大森 元貴
いや待ってお前ら
大森 元貴
大森 元貴
俺のセリフをナチュラルに奪うなよ
若井 滉斗
若井 滉斗
早い者勝ちです。
藤澤 涼架
藤澤 涼架
もたもたしてるから〜
大森 元貴
大森 元貴
ムカつくんだけど
アーク・インフェルナ
アーク・インフェルナ
主人、顔に出てるぞ
大森 元貴
大森 元貴
うるさい
そう言い返しながらも。


元貴の指先は、

無意識みたいに、

そっと自分の胸元を押さえていた。


そこにいる熱を、

確かめるみたいに。
※この物語はフィクションです。

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