
ゼノス・アルカディア
職業名は——

ゼノス・アルカディア
魔獣剥ぎ取り師

大森 元貴
……え?

若井 滉斗
は?

藤澤 涼架
ん?

大森 元貴
剥ぎ取り?

ゼノス・アルカディア
ただ倒すだけじゃない
テーブルを指先で軽く叩く。

ゼノス・アルカディア
いかに綺麗に

ゼノス・アルカディア
いかに価値を損なわず

ゼノス・アルカディア
素材を持ち帰れるか

ゼノス・アルカディア
それが評価になる

大森 元貴
討伐職じゃなくて職人じゃん……

ノクス・ヴェイル
その通りだよ
穏やかに微笑む。

ノクス・ヴェイル
この国では命を奪う技術よりも、

ノクス・ヴェイル
命を無駄にしない技術の方が重視される

ノクス・ヴェイル
討伐は誰でもできる

ノクス・ヴェイル
だが価値を残すのは知識と経験が必要です

ゼノス・アルカディア
うん

ゼノス・アルカディア
命を奪うなら最後まで責任を持つ

ゼノス・アルカディア
それが僕らの考え方

アーク・インフェルナ
………
少しだけ空気が静かになる。

ゼノス・アルカディア
例えばFランク

ゼノス・アルカディア
薬草採取

ゼノス・アルカディア
草むしり

ゼノス・アルカディア
簡単な荷運び

ゼノス・アルカディア
銅貨三枚くらい

若井 滉斗
急に平和

藤澤 涼架
よかった……

ガルド・レックス
最初はみんなそこからだぞ!

アーク・インフェルナ
くだらねぇ

ゼノス・アルカディア
Eランクになると

ゼノス・アルカディア
牙イノシシや魔兎の解体

ゼノス・アルカディア
耳、牙、肉を回収する

ゼノス・アルカディア
銅貨十五枚

大森 元貴
急に命の話になった

若井 滉斗
薬草との温度差よ

ゼノス・アルカディア
Dランク

ゼノス・アルカディア
毒沼トカゲ

ゼノス・アルカディア
毒腺を傷つけずに摘出

ゼノス・アルカディア
皮も綺麗に剥ぐ

ゼノス・アルカディア
オークの素材回収も含まれる

ゼノス・アルカディア
銀貨五枚

藤澤 涼架
怖くなってきた……

若井 滉斗
毒とか……恐ろしい……

大森 元貴
俺ら音楽やってたんだけどな……

藤澤 涼架
急に解体師に転職させられてる……

ガルド・レックス
慣れれば楽しいぞ!!

若井 滉斗
隣で大音量で興奮してる

若井 滉斗
爆食の悪魔が1番怖いです

ゼノス・アルカディア
Cランク

ゼノス・アルカディア
炎熱の荒鷲

ゼノス・アルカディア
燃える羽根を傷つけずに回収

ゼノス・アルカディア
一羽銀貨二十枚

若井 滉斗
金額は魅力的になってきた

大森 元貴
仕事内容は魅力的じゃない

ゼノス・アルカディア
Bランク

ゼノス・アルカディア
岩鉄のゴーレム

ゼノス・アルカディア
核を壊さず

ゼノス・アルカディア
魔力銀だけ削り取る

ゼノス・アルカディア
金貨三枚

藤澤 涼架
金貨ってどれくらい?

ゼノス・アルカディア
一般家庭なら数週間は遊んで暮らせるかな

大森 元貴
高っ!

ゼノス・アルカディア
Aランク

ゼノス・アルカディア
双頭のキマイラ

ゼノス・アルカディア
三つの頭部を綺麗な状態で回収

ゼノス・アルカディア
金貨十五枚

大森 元貴
もう仕事内容聞きたくない

若井 滉斗
金額だけ教えてくれ

ガルド・レックス
俺Aランク好きだぞ!!

ノクス・ヴェイル
誰も聞いてないよ

ゼノス・アルカディア
そして——
少しだけ声が落ちる。

ゼノス・アルカディア
Sランク
部屋が静まる。

ゼノス・アルカディア
古龍

ゼノス・アルカディア
逆鱗、眼球、心臓

ゼノス・アルカディア
部位ひとつで国家が動く
沈黙。

大森 元貴
…………

若井 滉斗
…………

藤澤 涼架
…………

ガルド・レックス
おっ??
元貴は眉をひそめる。

大森 元貴
思ったより

大森 元貴
だいぶ命と向き合う仕事だった
ゼノスは静かに頷いた。

ゼノス・アルカディア
そうだよ
その声音は穏やかだった。

ゼノス・アルカディア
だから誰でもできる仕事じゃない

ゼノス・アルカディア
でもね
紫の瞳が三人を見つめる。

ゼノス・アルカディア
君たちなら、きっと向いてると思う

若井 滉斗
根拠は?

ゼノス・アルカディア
あははっ

ゼノス・アルカディア
だって君たち

ゼノス・アルカディア
命の重さを知ってる顔してるから

大森 元貴
その判断基準が怖いんだよ……

若井 滉斗
命の重さは分かるけどさ……

若井 滉斗
向いてるって言われても

若井 滉斗
全然嬉しくないんだけど

藤澤 涼架
僕、多分倒せないかも……
少し不安そうに視線を落とす。

藤澤 涼架
だって可哀想じゃん………

大森 元貴
いやそこなの?
涼ちゃんを見る。

大森 元貴
涼ちゃん?魔物だよ?

大森 元貴
動物じゃないんだよ?

藤澤 涼架
でも生きてるじゃん……

若井 滉斗
あー……

若井 滉斗
涼ちゃんそういうタイプだもんな

ガルド・レックス
優しいなぁ!!
ゼノスは、そんなやり取りを静かに眺めていた。
そして、
少しだけ目を細める。

ゼノス・アルカディア
君たちは優しすぎる
穏やかな声だった。
けれど、
そこには現実を知る者の重みがある。

ゼノス・アルカディア
優しさは大事だよ

ゼノス・アルカディア
でもね

ゼノス・アルカディア
優しいだけじゃ何も守れない
静かな言葉が落ちる。

ゼノス・アルカディア
迷っている間に

ゼノス・アルカディア
誰かが傷つくこともある

ゼノス・アルカディア
だから必要な時は決断しなきゃいけない
アークも腕を組みながら頷いた。

アーク・インフェルナ
その通りだ

アーク・インフェルナ
心を鬼にしろ

アーク・インフェルナ
じゃなきゃ生きていけねぇぞ

大森 元貴
………
小さく息を吐く。
この世界へ来てから。
綺麗事だけではどうにもならない場面を、
何度も見てきた。

大森 元貴
……やるしかないか

若井 滉斗
マジで言ってる……?

大森 元貴
だってさ
肩をすくめる。

大森 元貴
帰る方法探すにも金いるし

大森 元貴
楽器も欲しいし

大森 元貴
飯も食わなきゃだし

若井 滉斗
現実的だな急に

大森 元貴
現実見ないと死ぬ世界らしいからね

藤澤 涼架
うぅ……

藤澤 涼架
頑張る……
元貴は少しだけ笑う。

大森 元貴
じゃあまずはFランクからだな

大森 元貴
今はまだモンスター見たくない

若井 滉斗
それは俺も賛成

藤澤 涼架
草むしりなら平和そう

ガルド・レックス
平和すぎるだろ!!
ゼノスは、
そんな三人を見て楽しそうに笑った。

ゼノス・アルカディア
あははっ

ゼノス・アルカディア
仕事は明後日からだよ

大森 元貴
え?

若井 滉斗
明日じゃないの?
ガルドが勢いよく身を乗り出す。

ガルド・レックス
おう!!安心しろ!!

ガルド・レックス
魔物の解体なら

ガルド・レックス
俺が叩き込んでやるからな!!

ガルド・レックス
明後日が楽しみだぜぇ!!!

大森 元貴
俺は全然楽しみじゃない

若井 滉斗
同意

藤澤 涼架
同意二

ガルド・レックス
なんでだよ!?

アーク・インフェルナ
……(オレは少しだけ楽しみ)

ゼノス・アルカディア
まぁまぁ
手をひらひら振る。

ゼノス・アルカディア
今日はこの国を一周ぶらぶら歩こう

ゼノス・アルカディア
街も市場も見せてあげる

大森 元貴
観光?

ゼノス・アルカディア
観光

若井 滉斗
魔王の観光ガイドとか聞いたことない

藤澤 涼架
豪華すぎる……

大森 元貴
てかなんで仕事は明日じゃ駄目なんですか?
ゼノスの笑みが、少しだけ薄くなる。

ゼノス・アルカディア
明日はね

ゼノス・アルカディア
ガルド、ノクス、カイアス、フェル

ゼノス・アルカディア
八幹部の何人かが動く
部屋の空気が、わずかに静まった。

ゼノス・アルカディア
インロルシヤ王国にいる人たちを

ゼノス・アルカディア
保護しに行くんだ

若井 滉斗
保護……?

ゼノス・アルカディア
うん

ゼノス・アルカディア
人間たちをね
元貴たちは顔を見合わせる。

ゼノス・アルカディア
宣戦布告はしない
静かな声。

ゼノス・アルカディア
でも放置もしない

ゼノス・アルカディア
今のインロルシヤは危険すぎる

ゼノス・アルカディア
自国民すら守れていない
紫の瞳が静かに細まる。

ゼノス・アルカディア
だから助けられる人は助ける

ゼノス・アルカディア
それだけだよ

大森 元貴
それって……
喉が少し乾く。

大森 元貴
戦争ですよね……?

若井 滉斗
………いやな予感しかしない

藤澤 涼架
戦争……
表情が曇る。
ノクスが静かに口を開いた。

ノクス・ヴェイル
安心してください
穏やかな声だった。

ノクス・ヴェイル
我々は無闇に命を奪うつもりはありません

ノクス・ヴェイル
襲われない限り

ノクス・ヴェイル
こちらから攻撃することはないでしょう

若井 滉斗
本当に?

ノクス・ヴェイル
えぇ
優しく頷く。

ノクス・ヴェイル
できるなら言葉で終わらせたい

ノクス・ヴェイル
それが我の願いです

ノクス・ヴェイル
血が流れない結末があるなら

ノクス・ヴェイル
そちらを選びたい
元貴は、
少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。

ガルド・レックス
えぇーーーっ!?
突然大声が響く。

ガルド・レックス
聞いてねぇぞぉ!!

ガルド・レックス
せっかく暴れられると思ったのにぃ!!

大森 元貴
最低だこいつ

若井 滉斗
正直すぎる……

アーク・インフェルナ
脳筋

ガルド・レックス
脳筋じゃねぇよ!!

ノクス・ヴェイル
ガルド
にっこり。

ガルド・レックス
はい

ノクス・ヴェイル
黙ろうか

ガルド・レックス
はい……
一瞬で大人しくなる。
ゼノスは、
そんな光景を見ながら小さく笑った。

ゼノス・アルカディア
あははっ

ゼノス・アルカディア
まぁ

ゼノス・アルカディア
何事も起きないのが一番なんだけどね
そう言った魔王の声だけが、
妙に現実味を帯びて聞こえた。
※この物語はフィクションです。
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第68話 10分だけの慈悲。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。