何気ない日々。毎日同じことを繰り返すだけの日々。ずっとこのままなんて嫌だと心では思っても、一歩踏み出すことができない。
俺は寺島大輝(てらしま おおき)。歳は20歳で仕事は大工。親父やじいちゃんの影響でやっている。だけど、楽しいわけでもなく俺には向いていないなと感じている。
ため息混じりに呟いてみるが、アニメのようにちょうど誰かが通りかかるわけでもなく、タイミングよく着信がなるわけでもなく、誰もいない作業部屋に声が響いて消えていくだけだった。
作業道具を置いて早足でコンビニへ向かう。今日は11月1日。そろそろ肌寒い季節だ。息が真っ白になっている。
コンビニでホットココアとおにぎりを買って外に出る。ふとスマホをみると、一件の着信があった。
俺は、着信主に電話をかけ直した。たったワンコールで彼は電話に出た。
みやは、最近よくつるんでいる友人で、
「みやかわくん」という名前でYouTuberをしている。みやとはTwitterで知り合った。俺もたまに自分のチャンネルに動画を上げたりしているが特に人気があるわけでもない。みやが俺の事をテオくんと呼ぶのは、チャンネル上での名前が「テオくん」だからだ。今日の願いは多分、いや確実に動画に出て欲しいという願いだろう。
他の二人が誰なのか気になりつつも、確かに暇なことに変わりはないし、多分断っても無駄だから引き受けることにした。
ふぅ...と溜め息をついてから歩き始める。特に気乗りもしなかった。みやが嫌なわけではないが、多分今の俺はなんでも面白くないと感じてしまうんだろう。
ぶつぶつ呟きながら、とぼとぼ歩く。
これが、俺の人生の大きな転機となるとも知らずに。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!