まさか彼女でもないのに、またしても小谷くんの部屋にお邪魔して夜を過ごす事になろうとは。
私なんて意識する対象にもならないのかもしれないけど、人と関わる事が好きではないと噂されているのに困っていれば助けてくれる彼は、何を思っているのだろうかと気になるところ。
正直、旅行は乗り気じゃない。杏子と二人なら良かったけど、浦部くんと楠木くんが一緒だから。
勿論二人が嫌いな訳じゃないけど、やっぱり異性が居るのと居ないのとでは心持ちも違う。
確かに小谷くんも異性だけど、彼は他の男の子とは違う。
それは恋愛感情を抱いている訳でもなく、かと言って男の人と意識していない訳でもない。
上手く言えないけど、特別という言葉が相応しい気がする。
私にとっての家族は叔父さん夫婦で、正直彼らの居る空間に安心感を感じた事はなかった。
でも、小谷くんは家族くらい近い存在というか、今は誰よりも信頼出来る人……と言えるかもしれない。
聞いてはいけない事だったのだろうか。流れから『特別=恋愛』と結びつけようとする小谷くんの知っている人は女の子で、否定はしたけど他の人よりは親しい間柄なのではないかと思う。
確かに、彼に恋愛感情を抱いた事は無い。
こうして二人きりで夜を共にしても安心出来るくらいに信頼出来る、家族のような存在だ。
だから、彼が私をどう思っているかなんてそこまで気にはならなかった筈なのに。
彼にとっての自分の存在はどういったものなのか気になり始めてしまった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!