いや、、めちゃくちゃ綺麗じゃん!!!
先輩は僕の返事を聞かないまま腕を引っ張り、強制的に部屋へ上がらされた。
「散らかっている」と口先では言いながら、無駄なものは1つもなく、無理にオシャレを気取っていない雰囲気で僕には合っていた。
2人ともずぶ濡れのまま、廊下を歩いていく。
でも僕には、とにかく気になっていることがあった。
ぐいっと先輩を引っ張ると、勢いづいてその華奢な身体が僕にもたれかかってくる。
想像以上に近い距離感になり、先輩は目を潤ませながら顔を赤く染めている。
そして、
染まっているのは顔だけじゃない。
少し血で滲んだ包帯をゴミ箱へ捨て、新しい包帯を先輩の頭へと巻いていく。
僕はベッドに座り、地面に座っている先輩の手当てをしていた。
のだが、
さっきから、先輩のテンションが低い。
むぅっと口を膨らませながら不貞腐れている様子は、本当の子どものようだ。
かわいいな、と内心思いながらも
手は淡々と作業を進める。
僕は、なんとなくその理由に気がついている。
しかしどうにも触れがたく、分かっていないふりをした。
ふんっと鼻を鳴らしながら前を向く先輩。
どうしたものか、、
さっきの言葉と行動の意味を聞く?
んーっと考えていると、
先輩の突然の発言に、僕は全身の血の気が引いた。
言葉が出なくなった。
先輩がもう一度振り向いて、その甘美で麻薬のような瞳を僕に向けてくる。
その瞳は鋭かった。
まるで、何かに気がつき、真実を見据えているように。
一瞬、時が止まったような気がした。
数秒の沈黙が、まるで数時間経っているかのように長く感じる。
手のひらで汗が滲んだ。
早口になっていないだろうか?
腕は、身体は震えていないだろうか?
この状況の全てが怖くなり、心音が大きくなっていく。
なんだか納得のいかなそうな顔をしている先輩を見て、全てを思い出したのかと不安になった。
いや、そんなことあるわけがない。
ふふ、とその造形美な顔に笑みが浮かんだ。
甘く、柔らかい笑みが。
「君のそのかわいい顔も、どこかで見たことがある気がするんだけどなぁ」
と、考え込みながら話す先輩に、目が離せなかった。
僕のことを、思い出す?
でも、僕は先輩の死を糧に僕達が出会わない未来を作って、目の前にいる先輩はその線路の上を走っているはず。
僕との記憶があるわけないのに。
本心が思わず、か細い声になって溢れ出てきた。
どうするのが正解かわからず、言葉が見つからなくて黙り込んだ。
するとまた、先輩が口を開く。
先輩の爆弾発言に動揺が隠せない。
突然先輩がベッドに手をつき、僕を押し倒してきた。
また先輩が僕に恋をしてくれるだなんて、夢にも思わなかった。
先輩を好きな気持ちが再燃してきて、涙とともに溢れてくる。
でも、今の先輩の頭にある傷は、
もしかしたら僕の再会したことで作られてしまった未来かもしれない。
また先輩に少しずつ、危険が及んでいることがどうしても気がかりだった。
この言葉に、たくさんの意味が込められている。
でも、先輩にはそんな意味は届かない。
告白を断られたという、虚しく耐え難い意味としてしか捉えられないだろう。
僕は涙を止めることができなかった。
逃げるように寝室を後にし、揺らぐ瞳孔で僕の靴を探す。
そんな僕の後ろを先輩は急いで追いかけ、僕の腕をぐっと掴んだ。
嘘だ。雨なんか降っていない。
先輩もその事実に気がついている。
しかし、嘘をついてまで僕を引き留めようとしている気持ちが伝わり、胸がきりきり痛んだ。
僕は、叫ぶように言い放った。
先輩に向けてではなく、自分に言い聞かせるように放ったその一言は、
先輩の心を、深く傷つけてしまったみたいだ。
「遅くまでごめん、気をつけて帰ってね」
そう言う先輩の瞳は生気を失い、そして一筋の涙が流れた。
扉がバタンと閉まり、後ろの壁まで後ずさってしゃがみ込む。
僕の微かな呻きが混ざった泣き声は、雨とともに静寂の中へ消えていった。
誰にも、聞かれることもなく_________













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。