第94話

先輩の家
2,261
2025/06/02 13:58 更新







テヒョン
テヒョン
どうぞ、、ごめんね。
散らかってるけど。
ジョングク
ジョングク
あ、ありがとうございます。



いや、、めちゃくちゃ綺麗じゃん!!!


先輩は僕の返事を聞かないまま腕を引っ張り、強制的に部屋へ上がらされた。



「散らかっている」と口先では言いながら、無駄なものは1つもなく、無理にオシャレを気取っていない雰囲気で僕には合っていた。


2人ともずぶ濡れのまま、廊下を歩いていく。




でも僕には、とにかく気になっていることがあった。



テヒョン
テヒョン
お風呂はこっち、、って、え!?
ジョングク
ジョングク
……


ぐいっと先輩を引っ張ると、勢いづいてその華奢な身体が僕にもたれかかってくる。


テヒョン
テヒョン
…っ、あ、え//




想像以上に近い距離感になり、先輩は目を潤ませながら顔を赤く染めている。



そして、


染まっているのは顔だけじゃない。


ジョングク
ジョングク
……
ジョングク
ジョングク
……一旦その血、止めましょうか。
テヒョン
テヒョン
………







ジョングク
ジョングク
あの、痛くないですか?
ジョングク
ジョングク
もう少し強くしても大丈夫?
テヒョン
テヒョン
……大丈夫でーす。




少し血で滲んだ包帯をゴミ箱へ捨て、新しい包帯を先輩の頭へと巻いていく。


僕はベッドに座り、地面に座っている先輩の手当てをしていた。



のだが、



さっきから、先輩のテンションが低い。


むぅっと口を膨らませながら不貞腐れている様子は、本当の子どものようだ。



かわいいな、と内心思いながらも
手は淡々と作業を進める。







僕は、なんとなくその理由に気がついている。


しかしどうにも触れがたく、分かっていないふりをした。


ジョングク
ジョングク
あ、えっと、、
何か怒ってます、?
テヒョン
テヒョン
…いや?
別に何も。
ジョングク
ジョングク
さっきからため息ばっかりじゃないですか!
テヒョン
テヒョン
…はぁ、
ジョングク
ジョングク
ほらまた!!
テヒョン
テヒョン
チョンさんって、、
案外鈍感なんだね。
ジョングク
ジョングク
…え?



ふんっと鼻を鳴らしながら前を向く先輩。



どうしたものか、、
さっきの言葉と行動の意味を聞く?



んーっと考えていると、
先輩の突然の発言に、僕は全身の血の気が引いた。


テヒョン
テヒョン
……あのさ、
ずっと思ってたんだけど、
テヒョン
テヒョン
やっぱり一度だけ、下の名前で呼んでみたらダメかな?
ジョングク
ジョングク
…え、


言葉が出なくなった。


先輩がもう一度振り向いて、その甘美で麻薬のような瞳を僕に向けてくる。




その瞳は鋭かった。


まるで、何かに気がつき、真実を見据えているように。


テヒョン
テヒョン
俺達、
どこかで出会ったことない?





一瞬、時が止まったような気がした。


ジョングク
ジョングク
………


……え、っと、




数秒の沈黙が、まるで数時間経っているかのように長く感じる。


手のひらで汗が滲んだ。


ジョングク
ジョングク
何言ってるんですか!
出会ったことなんてないですよ!



早口になっていないだろうか?


腕は、身体は震えていないだろうか?



この状況の全てが怖くなり、心音が大きくなっていく。



テヒョン
テヒョン
そっか、、そうだよね。
ジョングク
ジョングク
…どうして、いきなり?




なんだか納得のいかなそうな顔をしている先輩を見て、全てを思い出したのかと不安になった。


いや、そんなことあるわけがない。


テヒョン
テヒョン
んー、言葉で表現しにくいんだけどね、
テヒョン
テヒョン
なんだか、すごく懐かしいんだ。



ふふ、とその造形美な顔に笑みが浮かんだ。


甘く、柔らかい笑みが。


テヒョン
テヒョン
最初に、君に会った時から、一目見た時から、すごく泣きそうになっちゃって。
テヒョン
テヒョン
君を見た途端に内側から、熱いものが込み上げてきたんだよ。

それも、身に覚えがないのに初めての感覚じゃない。


「君のそのかわいい顔も、どこかで見たことがある気がするんだけどなぁ」



と、考え込みながら話す先輩に、目が離せなかった。





僕のことを、思い出す?



でも、僕は先輩の死を糧に僕達が出会わない未来を作って、目の前にいる先輩はその線路の上を走っているはず。




僕との記憶があるわけないのに。



ジョングク
ジョングク
それ、すごいですね。。

僕達会ったことないのに、そんなこと、




本心が思わず、か細い声になって溢れ出てきた。



どうするのが正解かわからず、言葉が見つからなくて黙り込んだ。





するとまた、先輩が口を開く。




テヒョン
テヒョン
それじゃ、俺がさっき告白したのは?
覚えてない?
ジョングク
ジョングク
えっ、!?//



先輩の爆弾発言に動揺が隠せない。



テヒョン
テヒョン
俺は本気だよ。




突然先輩がベッドに手をつき、僕を押し倒してきた。



テヒョン
テヒョン
何度だって言う。
テヒョン
テヒョン
俺は君のことが好き。
頭がおかしくなるほど大好きなんだ。
ジョングク
ジョングク
は、//



また先輩が僕に恋をしてくれるだなんて、夢にも思わなかった。


先輩を好きな気持ちが再燃してきて、涙とともに溢れてくる。


テヒョン
テヒョン
それは、何の涙、?
ジョングク
ジョングク
…っ、ふ、ぅっ、




でも、今の先輩の頭にある傷は、


もしかしたら僕の再会したことで作られてしまった未来かもしれない。


また先輩に少しずつ、危険が及んでいることがどうしても気がかりだった。


ジョングク
ジョングク
ごめん、なさっ、いっ、ふぅ、




この言葉に、たくさんの意味が込められている。



テヒョン
テヒョン
……そっか。




でも、先輩にはそんな意味は届かない。


告白を断られたという、虚しく耐え難い意味としてしか捉えられないだろう。




僕は涙を止めることができなかった。




ジョングク
ジョングク
もう、帰ります、、
ありがとうございましたっ、




逃げるように寝室を後にし、揺らぐ瞳孔で僕の靴を探す。



テヒョン
テヒョン
まって!!
テヒョン
テヒョン
ねぇ、お願い。ほんとにまって、



そんな僕の後ろを先輩は急いで追いかけ、僕の腕をぐっと掴んだ。


テヒョン
テヒョン
まだ濡れてるし、お風呂に入ろう、ね?

雨もまだ降ってるしっ、!




嘘だ。雨なんか降っていない。


先輩もその事実に気がついている。




しかし、嘘をついてまで僕を引き留めようとしている気持ちが伝わり、胸がきりきり痛んだ。



テヒョン
テヒョン
ごめん、全部…なかったことにしていいから、
テヒョン
テヒョン
また前みたいに話したい。
仲良くしてほしい。



僕は、叫ぶように言い放った。



ジョングク
ジョングク
やめてください、
もうこれ以上干渉しないで、!
ジョングク
ジョングク
僕達は、他人なんですから。





先輩に向けてではなく、自分に言い聞かせるように放ったその一言は、





テヒョン
テヒョン
……






先輩の心を、深く傷つけてしまったみたいだ。






テヒョン
テヒョン
…そっ、か、そうだよね。
テヒョン
テヒョン
チョンさんの、言う通りだよ。






「遅くまでごめん、気をつけて帰ってね」





そう言う先輩の瞳は生気を失い、そして一筋の涙が流れた。





扉がバタンと閉まり、後ろの壁まで後ずさってしゃがみ込む。


ジョングク
ジョングク
ふ、っく、せん…ぱいっ、あぁ、




僕の微かな呻きが混ざった泣き声は、雨とともに静寂の中へ消えていった。



誰にも、聞かれることもなく_________






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