目の前に広がる、真っ白な世界。
ここがどこなのかが分からない。
どうしてこんな場所にいるのかも分からない。
自分が誰なのかも、分からない。
でもただ1人だけ、こんな孤独で先の見えない未来で、
手を差し伸べてくれている人がいる。
暗くて見えない。けど、
俺は、この人をどこかで、、、
突然固まっていた身体を揺さぶられ、意識が戻ってきた。
ふと目線を上げると、ナムマネが心配そうな顔をしながら俺の肩を掴んでいる。
俺が着てた衣装もぐしゃぐしゃだ、、
疲れているんだろう。
今の走馬灯みたいなのも幻に違いない。
「ほら、早く乗るぞ!!」
俺の様子を見て安堵したのか、楽しそうに走っていくナムマネの後を焦って追いかける。
観覧車に近づくたび、胸が痛くなるのは、、
気のせいだろう。
あたりも暗くなってきたからか、観覧車に並んでいる人はほぼいなくて最前列をナムマネが陣取っている。
どんどん走っていくと少し広い通りに出て、目の前には目的地である光景が広がっている。
しかし、なぜか足が踏み出せない。
ふと横を見ると、そこは大きな通りになっていて両脇側にお店がずらりと並んでいる。
その中でなぜか、一際輝いていて目が離せない店があった。
なんだ?
ネックレス屋から、誰かが走ってきている。
足を大股に開き、必死に腕を振って、金髪の髪の毛をふわふわと揺らしながら走ってくる男に目が離せない。
その男が近づいてくると同時に、
動悸が、治まらなくなった。
どんどんクリアになり、男の顔をはっきりととらえた時、俺は自分の視界を疑った。
あれは間違いない。
いや、でもありえない。
どうして?
自分と全く同じ顔の男が、袋を持って息を切らしている。
その顔はなぜか、すごく幸せそうだ。
すっと、風を切りながら、横を通り過ぎていく。
まるで俺のことに気づいていないかのように。
男は、走りながら誰かの名前を呼んでいた。
ただ一言、
「ジョングガ」と。
頭が、痛い。
本当に割れてしまいそうなほどに、頭痛の域を超えて地鳴らしが起きているようだ。
俺は何かを忘れている。
いや、俺の中に存在しない記憶がある。
絶対に忘れたくない記憶が_________
突然俺の名前を叫ばれ、脳が飛び起きた。
違和感に気がついたのか、ナムマネがうずくまりそうになっている俺の元へ、駆け寄ってきてくれている。
しかし、そんな周りの状況は全く頭に入らなかった。
何度も何度も、名前を叫ばれる。
この声、俺が大好きな声だ。
なかったはずの記憶がどんどん、頭の中へと流れ込んでくる。
涙が、溢れて止まらない。
頭も全く、何が起きているのか理解できていない。
ぎゅっと、目を閉じたその瞬間、
俺は思い出した。
頭にはっきりと浮かんだのは、綺麗な涙を流し、俺をしっかりと見つめるその瞳。
どうして、、
なんで君が、俺の記憶の中にいるの?
崩れかけた俺の身体を、すんでのところでナムマネが受け止めてくれた。
その体格のいい胸に抱きつきながら、涙を流し、
ださい格好で頼み込む。
家に着いた途端に、口先だけのお礼を言って車から飛び出した。
やっぱりそうだ。
俺達は、他人なんかじゃなかった…!
全てを思い出したわけではないけど、
チョンさんが俺にとって、大切な人だったことだけは分かる。
これまでも、、そして、これからも。
今すぐに会いたい。
本人に会って、そして、確かめないと。
俺達はどういう関係だったのか、そして、どうして他人なんだと嘘をついたのか。
撮影現場で事故が起きた日に、背中にかけてもらったチョンさんのコートが、ハンガーにかかっている。
何度も何度もアイロンをかけたから、皺は一つもない。
どうにか話す口実にできないかと持ったまま、
その任務は果たすことができなかった。
ついでに返そうと思って、少し乱暴にそのコートを引っ張った瞬間、
そのポケットから何かが落ちた。
落ちた物を拾い上げて、俺はまた目を疑う。
落ちたスマホを拾い上げると、なんだか懐かしい気持ちになった。
電源をつけてみると、そのロック画面には俺とナムマネが涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、肩を組んで笑っている写真が出てきた。
これは、、最初の授賞式で賞をとれたときの写真だ。
間違いない。
でも、俺は数年前に機種を変えたから、その時にこのスマホは捨てたはずだ。
なのになんで、、チョンさんが持っている??
たくさんの疑問を抱きながら、震える右手でパスワードを打っていく。
パスワードは自分の誕生日に設定していたという、昔の記憶を頼りに打ってみると、上手く開くことができた。
入っていたアプリケーションや、写真なども残っていてスクロールをしながら順番に見ていく。
するとその写真フォルダの1番新しいところに、
真っ暗なサムネイルの、10分ほどの動画を見つけた。
…俺、捨てる前にどこかで撮ったっけ?
全く身に覚えのない謎の動画が怖く、しかし無意識に惹かれるように再生ボタンを押した。
始まると同時に、ドアップで映し出された男の顔は、
間違いなく俺だ。
動揺を通り越して、瞬きもできずにいる俺なんてお構いなしにその動画は続いていく。
こうして約10分間の、記憶にない俺からのビデオレターが始まった。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!