第6話

6 それぞれの思い
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2019/11/06 12:54
頭の中にウォヌの言葉がチラつく。
思い出したい訳じゃないのにどうしても消えない。
○○
○○
どうしたらいいのよ…… 馬鹿……
逃がすまいと詰められる距離、

切れ長の目。
触れられれば自分より少し低い温もりが伝わってきて。
その全てに勝手に反応してしまう自分がいる
気付かないフリをしていたのに 全てを一瞬で崩してきた
○○
○○
……あ。
いつの間にかブロッコリーを茹でていたお湯が沸騰して吹きこぼれていた
慌てて火を消し ため息をこぼす
ウォヌ
ウォヌ
ボコボコいってたけど、何事
ひょっこりとソファに座っていたはずのウォヌが顔を覗かせた
○○
○○
なんでもない。大丈夫だから。
ウォヌ
ウォヌ
なんでもなかったらブロッコリーがなんで鍋からこぼれてるんだよ…
呆れたように笑いながら背後に立つウォヌ
いつもの流れだと抱きしめられるので、思わず距離を取る
ウォヌ
ウォヌ
……なに。
○○
○○
大丈夫だから。座ってテレビでも見てて





やめて。近寄らないで。






ウォヌ
ウォヌ
やだ






お願いだから





○○
○○
触らないでっ!





その温もりを癖にしないで。


当たり前だと勘違いする前に離れてよ。


この気持ちに蓋をするのに精一杯なんだから。


これ以上かき乱さないでよ。

自分自身の身体を抱きしめるように腕を回して目を瞑る
ウォヌ
ウォヌ
なんで隠すの……
頭の上からの声が降ってきた
ポツリと。
寂しげな小さい声に顔を上げる
ウォヌ
ウォヌ
こんな事に…… こんな事になるなら、人間になんかならなきゃ良かった
キラキラと光る目は伏せられて、そのままキッチンから出ていってしまった
パタンとドアが閉まる音がした。
寝室に行ったんだろう
○○
○○
だっておかしいでしょ……
○○
○○
猫に恋なんて……
○○
○○
それに……
もしもこの先、猫に戻るなんて事があれば……
この気持ちはどこに向ければいいのか。
1度得たものが無くなるのは嫌だ


目の前には吹きこぼれた1つのブロッコリー。
それだけなのに涙が溢れてくる。








ウォヌside
「ウォヌ。」
気持ちのいい声で名前を呼ばれて。
自分よりあたたかい温もりの身体に抱きしめられる


俺は恋をした。


人間の彼女に。
おかしな話だし、この気持ちは一生伝えるはずがなかったのに。
ジュン
ジュン
人間にしてあげよっか。
あ、こんにちは。神様だよ。
けどジュンって呼んでね
突拍子もない自称神様という変なやつが現れて変な話を持ちかけてきた
無理なはずだ。
だけど……
この気持ちを1度でも伝えられたならどんなにいいか。
でも怪しすぎる。
なんだよ神様って。
ジュン
ジュン
あ、今怪しんだでしょ。
ほんとなんだから!
なんでも知ってるし。
君が飼い主の女の子を好きな事もね。
ニコッと笑うそいつの言葉に耳がピクっと動いた
知ってんのかよ。
ならこの際 一か八かだ。
ウォヌ
ウォヌ
ならしてみろよ。人間に。
ジュン
ジュン
いいよ〜
すっと指先が動いたと思った瞬間、身体がズシリと重くなる
顔にかかる毛が邪魔くさくて避けようとすれば俺の指は5本になっていた。
自慢の毛もない。
足もやたらと長い。
ジュン
ジュン
は〜い! 気に入った?
そいつの持っている板を向けられれば、自分だと思われる人間の顔が熱くなる映った
ウォヌ
ウォヌ
顔は……まぁ、良い方だな。
ウォヌ
ウォヌ
あぁ。気に入った。
これであいつと同じだ。
声だってあいつに伝わる
そう嬉しく思って、帰ってきたあなたを迎えたら案の定、ビビられて。
説明すると徐々に受け入れてくれて。
やってみたかったデートもして。


やっと言いたかった言葉を伝えたのに。


ウォヌ
ウォヌ
どうすりゃいいんだよ。
「触らないで。」
その言葉が胸に刺さった。
あぁ、 俺、嫌われたのか。
好きって言ったから。
拗ねてくるまった布団からはあなたの匂いがする。
それが余計に虚しくなってしまって。


もし猫のままだったら気持ちは伝えられなくても、ずっと抱きしめてくれてたかもしれないのに、どうして人間になったりしたんだろう。


もう何も考えたくなくなった俺はそのまま目を閉じて意識を手放した。

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