コツコツコツ
背は俺と同じくらい。いつも喪服。サングラスをかけている。
またあの人が来た。
一
あの人はよくここに来る。そして何かつぶやいて帰っていく。煙草を置いてった事もあったな。
俺は萩原研二。爆発物処理班に居たんだけど爆弾の解体が間に合わなくて死んじまった。
今は自分の墓でのんびりしている。前はあんなに忙しかったのにな。
ボーっとしていると偶に何か大事なものを忘れているような感じになる。気のせいだと思ってもやっぱり何かひっかかる。両親や親戚は覚えてる。自分の家も。友達…忘れてるのは「友達」か?だが,降谷も伊達も諸伏も覚えてる。一体何を…
何故だろう。いつもそうだ。最初の言葉はハッキリと聞こえるのに段々聞こえなくなっていく。
俺とこの人の関係を知りたいのに声が聞こえない。
帰ってしまった。微かに聞こえた声は何だか懐かしい。でも誰だか分からない。そんな日が続いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!