第2話

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2020/05/22 08:17
私は物心ついた時には既に施設で暮らしていた。

つまりは孤児だった。

「両親は事故で亡くなった」と、施設の人に言われていた。
周りの子達と自分に差を感じたのは小学校の時。

子どもというものは好奇心旺盛で、無知で、残酷だ。

私に両親がいない事を知ると、「なんでママとパパがいないの?」と尋ねてくる。

その答えは己が1番理解出来ていないのだから答えられるはずも無ければ、その言葉で得られるものと言えば私に残る寂しさと悲しさだけである。

そうであるとは知らず、子どもは何度も何度も質問をしてきた。

「他人とは違う」という感覚は当時自分の体内で全身を蝕むモヤモヤを作り出し、自然と自分の中にあった「みんなには何故親がいるのか。」「親とはそもそも何なのか。」という疑問はこの感覚に揉み消されていった。

だが、そんなことは正直どうでもよかった。

私に質問してくる子どもはこれが私を傷つけているとは知らず、ただ自分の中にある疑問を解決しようとしているに過ぎないことぐらい、子供の私でもわかっていた。
問題なのは、孤児である事を知り見下し虐めてくる教師大人の存在だった。

わざと小学生の私では解けない中学校の問題を出し、「わかりません」と答えると、「これだから施設暮らしはw」と馬鹿にして来る大人。

それに便乗して笑ってくる子ども。

この時の教室は、無邪気な子どもの笑い声に覆われて隠された地獄の様なもので、私は人間の腐った部分を知った。

私の小学校では担任が6年間変わらない事もあり、6年間この苦痛に耐えたのは、子供の時の自分を賞賛したい。

1つ、この学校に感謝するなら、馬鹿にされない様に勉強も運動も人間としてのあり方も自分なりに工夫して努力する習慣をつけられた事だ。

お陰様で勉強は常に学年トップ、運動は人より頭1つ抜けていたし、人の気持ちを考えられる様になった。
しかし、中学校に上がると虐めはヒートアップした。

私の通っていた小学校は全員同じ中学校に上がるのだ。

他の小学校からも沢山の生徒が来るから虐めは治まるかと思っていたが、その考えは甘く、私は暴力的な虐めも受けるようになった。
この時、私は理解した。

人間とは習慣で生きており、1度習慣となったものは中々治るものでは無いこと。

そして、世の中には三種類の人間がいると言う事。

一つは、自分より劣るものに自分の強さを見せつける事で優越感に浸り、自分が特別であると己を肯定する事を好む、いわゆるいじめる側の人間。

二つ目は、安定を好み、なるべく損益を出したがらない、損益を出さないためなら誰かが犠牲になっても良いと考え、見て見ぬふりをする人間。

最後は、私の様に犠牲になる人間。
安定を好む人間というのは生徒は勿論大人も同じで、中学校の教師は虐めて来なかったが虐めを見て見ぬふりをした。

面倒事に関わりたくなかったのだろう。

誰も私を助けようとしなかった。

教師が虐めてこないだけマシではあったが、辛い事には変わりない。
でも、別にどうでもよかった。
私に両親がいなかった。

だから私が劣って見られるだけで、私自身が劣っているわけではない事は理解していた。

…そんな適当な理由をつけて、恐れ反抗しない理由を作り、事実から目を背けていた。

…結局、一番安定を望んだのは私だったのだろう。


高校も私の住んでいる地域では数が限られており、ほとんどの生徒が私と同じ高校に入学した。

高校でも当然の如く虐めは続いた。
殴られる度、痛みなどは段々薄れていく、高校卒業までには殴る蹴る程度ではほとんど痛くなくなった。

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