俺は、平凡な男子高校生だ。
言葉にしてそう言うと、実は何かあるのでは無いかと勘ぐられる。転生がどうだとか、チート能力がどうだとか。
だが、本当に何も無いのだ。これと言った才能の無い、一般人。
言い換えれば、平和で良いともとれるのだろう。
朝起きて、学校へ行って、友達とバカをやって、家に帰り、眠る。正直に言って楽しいし、終わって欲しくない毎日だ。
しかし、勿論ながら不満だってある。学校には友達と会いに行っているようなものだから、出来ることならつまらない授業も受けたくない。
机に突っ伏して寝たり、屋上へ行って騒いでいたい。だが、それをする覚悟は無い。
平凡という事は、中途半端ということでもある。特になんの決意も無く、覚悟も無く、ダラダラと毎日を過ごす。
焦りは感じていなかった。むしろ、皆こんなもんだと思っている。漫画のような人生を過ごすのは、ごく一部の限られた人間だけなのだ。
そして俺は、限られた人間では無い。ただそれだけ。
そんな現状を思いながら、自販機でホットコーヒーを買う。手に持っただけで熱く、とてもすぐに飲めそうにない。
冬だから暖かいのは良いけれど、熱いのは嫌なんだよな。缶で熱いのを飲むと、火傷しそうだし。
心のなかで文句を言いつつ、能力を発動させた。
『熱源操作』
それが、俺に与えられた能力。
物の温度を下げることが出来る。ただ生物には使えず、せいぜい火傷防止くらいにか役立たない能力だ。
テレビでは、もっと凄い能力を持った人間ばかりが取り上げられる。凄い能力を持つ者は、凄い才能を持つことが多い。
能力と言うのは、その人間の才能の有無を表しているようなものなのだ。
逆に言えば。
どうでもいい能力を持っている奴は、大抵才能が無いのである。
俺みたいに、な。
自嘲気味に笑って、缶コーヒーを啜る。人もいない、夜も遅い帰り道だからだろうか、少し気が緩んでいた。
だからだろうか。
一瞬にして周囲が明るくなっても、俺はバカみたいに突っ立っていることしか出来なかったのである。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。