「……えっと、ありがとうございます?」
疑問形になってしまったのは、先程の暴走があったからだ。痛みが増すようなことをされて、素直に感謝するほど純粋な性格はしていない。
既に腹部の痛みも無いものの、思い出すことは出来る。ちょっと、いやかなり酷い。
「お医者さん、なんですよね……?」
信用しきれず聞くと、医師らしき男は胸を張るようにしながら、慇懃無礼な態度で答えた。
「梅原だ。聞いたことくらいあるだろう?」
「うめはら……あっ」
思い出した。『梅原 弥月』、テレビでたまに取り上げられているのを見たことがある。
どこの組織にも所属しないフリーランスにも関わらず、圧倒的な力により相当な影響力を持つ男。
ランクはドーノで、能力名は絶対治癒。死者をも蘇生し、治癒能力において最高ランクを誇る。……って、リポーターの人は言っていた気がする。
やはり天才は我が強いのかな、と偏見まじりに相手を判断する。その不躾な視線がカンに障ったのか、梅原先生は舌打ちをすると、踵を返して部屋から出て行こうとした。
しかし、ドアに手をかけたところで振り返り、人差し指でビシッとこちらを指した。
「情報を開示しておいてやる!俺様のことをしっかりと知っておくんだな!」
と、意味の分からないことを言い残すと、高らかに靴音を鳴らしながら立ち去ってしまった。不味いことをしてしまった気がして、二人の方を見る。
しかし、二人はいつものことだと言わんばかりに苦笑いして、俺を責めることもせず、こっちへと歩いてくるだけだった。
「いやぁ、ほんと癖が強いな梅原先生は」
「ああ言うのは我が強いって言うんだ」
そんな軽口を叩きながら、金井さんが俺の肩を叩く。さっきまでは少し動くだけでも痛かったのに、今はなんてことはない。
怪我が治ったことを確かめたくて、ぐるぐるに巻かれていた包帯やらなんやらを外した。神屋坂さんは眺めているだけだったが、金井さんは喜々として手伝ってくれる。
一通り外し終えると、ベットから降りて屈伸してみる。如何せん怪我をした期間が短かったため、どうにも実感がわかなかった。
だが、自分が問題なく動けるというだけで十分な気もした。すると、神屋坂さんが咳ばらいをしながら、タブレット端末を取り出してこちらに差し出してきていた。
「気は済んだか?これを受け取って欲しいんだが」
「あ、はい!これは……?」
受け取った端末を起動すると、規制線のイラストと『能力者名簿』と書かれた画面が目に飛び込んでくる。
なんだか物々しい画面に首を傾げていると、金井さんが肩を組みながら説明してくれた。
「これは『能力者名簿』だよ。その名の通り、能力者のプロフィールなんかが表示されるんだ」
「そんなものがあるんですか!?なんか、ゲームみたいだ」
「あはは、なんとかモンスターな。俺もよくやってたよ」
金井さんの説明に従って自分の情報を登録していく。一通りの操作を終えると、画面が急に切り替わった。
『端末起動
使用者認証───
───完了
情報の閲覧を開始します。』
機械音声の後に、目次のような画面に切り替わる。そこには、俺の情報や組織の概要。それから組織別の項目が並んでいた。
突然のことに驚いていると、神屋坂さんと金井さんが端末に向かって声をかける。
「神屋坂薫、情報開示」
「金井公人、情報開示するぜ」
ピロン、と言う通知音と共に、バナーが表示された。
________
神屋坂 薫
金井 公人
梅原 弥月
の情報を開示しました。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!