第10話

8話
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2021/01/12 06:47
「……えっと、ありがとうございます?」


 疑問形になってしまったのは、先程の暴走があったからだ。痛みが増すようなことをされて、素直に感謝するほど純粋な性格はしていない。

 既に腹部の痛みも無いものの、思い出すことは出来る。ちょっと、いやかなり酷い。


「お医者さん、なんですよね……?」


 信用しきれず聞くと、医師らしき男は胸を張るようにしながら、慇懃無礼な態度で答えた。


梅原ウメハラだ。聞いたことくらいあるだろう?」

「うめはら……あっ」


 思い出した。『梅原 弥月ヤヨイ』、テレビでたまに取り上げられているのを見たことがある。

 どこの組織にも所属しないフリーランスにも関わらず、圧倒的な力により相当な影響力を持つ男。

 ランクはドーノで、能力名は絶対治癒。死者をも蘇生し、治癒能力において最高ランクを誇る。……って、リポーターの人は言っていた気がする。

 やはり天才は我が強いのかな、と偏見まじりに相手を判断する。その不躾な視線がカンに障ったのか、梅原先生は舌打ちをすると、踵を返して部屋から出て行こうとした。

 しかし、ドアに手をかけたところで振り返り、人差し指でビシッとこちらを指した。


「情報を開示しておいてやる!俺様のことをしっかりと知っておくんだな!」


 と、意味の分からないことを言い残すと、高らかに靴音を鳴らしながら立ち去ってしまった。不味いことをしてしまった気がして、二人の方を見る。

 しかし、二人はいつものことだと言わんばかりに苦笑いして、俺を責めることもせず、こっちへと歩いてくるだけだった。


「いやぁ、ほんと癖が強いな梅原先生は」

「ああ言うのは我が強いって言うんだ」


 そんな軽口を叩きながら、金井さんが俺の肩を叩く。さっきまでは少し動くだけでも痛かったのに、今はなんてことはない。

 怪我が治ったことを確かめたくて、ぐるぐるに巻かれていた包帯やらなんやらを外した。神屋坂さんは眺めているだけだったが、金井さんは喜々として手伝ってくれる。

 一通り外し終えると、ベットから降りて屈伸してみる。如何せん怪我をした期間が短かったため、どうにも実感がわかなかった。

 だが、自分が問題なく動けるというだけで十分な気もした。すると、神屋坂さんが咳ばらいをしながら、タブレット端末を取り出してこちらに差し出してきていた。


「気は済んだか?これを受け取って欲しいんだが」

「あ、はい!これは……?」


 受け取った端末を起動すると、規制線のイラストと『能力者名簿』と書かれた画面が目に飛び込んでくる。

 なんだか物々しい画面に首を傾げていると、金井さんが肩を組みながら説明してくれた。


「これは『能力者名簿』だよ。その名の通り、能力者のプロフィールなんかが表示されるんだ」

「そんなものがあるんですか!?なんか、ゲームみたいだ」

「あはは、なんとかモンスターな。俺もよくやってたよ」


 金井さんの説明に従って自分の情報を登録していく。一通りの操作を終えると、画面が急に切り替わった。


『端末起動
使用者認証───
───完了
情報の閲覧を開始します。』


 機械音声の後に、目次のような画面に切り替わる。そこには、俺の情報や組織の概要。それから組織別の項目が並んでいた。

 突然のことに驚いていると、神屋坂さんと金井さんが端末に向かって声をかける。


「神屋坂薫、情報開示」

「金井公人、情報開示するぜ」


 ピロン、と言う通知音と共に、バナーが表示された。


________
神屋坂カミヤザカ カオル

金井カネイ 公人キミト

梅原ウメハラ 弥月ヤヨイ

の情報を開示しました。

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