「……やっぱ、でけぇ」
スクードの本部を初めて見たのは、多分テレビ番組だったと思う。特集か何かを組んでいて、その時に本部も映っていた。
何階建てなのかを数えるのも面倒な高さのビルに、厳重なセキュリティ。様々な関連施設が入ったこの建物に、今から俺は入るんだ。
本物を目の前にしたのは初めてだが、思わず率直な言葉を漏らしてしまう。これじゃ子供みたいだ、と慌てて口を閉じたが、遅かった。
「はは、そう言われるとなんか嬉しいな」
隣に座る金井さんにはバッチリ聞こえていたようで、何故か照れくさそうな返事が返ってきた。運転関の神谷坂さんは、こちらなど気にもしていないようで、しかめ面でハンドルを操作していた。
駐車スペースに車を停め、ビルの入り口へと向かう。すると、自動ドアが開き、中から男の子と、若い女の人が出てきた。
二人は俺たちを見て出てきたようで、気さくな笑みのままこちらへ近づいてくる。
途端、俺を挟むように立っていた金井さんと神谷坂さんが、深々と頭を下げた。俺も慌ててそれにならうが、いまいち状況が把握出来ていない。あの二人も、スクードの職員なのだろうが。
「お疲れ様です、三井戸さん、昭原さん」
神谷坂さんの挨拶に、男の子は慌てたようにこちらへ駆け寄ってきた。
「や、やめてくださいよぉ!ぼく、そんなえらい人じゃないですから!ね、ね?」
俺たち三人を順番に見ながら、心底困ったように話しかけてくる。いや、俺は初対面なのだし、この子が偉いかどうかはわからないけど。
女の人も男の子に賛成するようなことを言ったので、三人仲良く頭を上げる。俺が混乱しているのがわかったのか、金井さんが気を利かせてくれた。
「この二人はな、スクードの幹部の方々なんだよ。三井戸さん、昭原さん、彼が今回の護衛対象です」
「思うとったよりも普通の子じゃね。まぁ、よろしぐな」
女の人達はこちらを見ると、不思議な口調でへらりと笑った。方言だろうか。反射的に会釈をしながら、さらっと聞かされた情報を整理して───
「──幹部!?こ、この男の子が、え、女の人が、かんぶ、え?」
明らかに神谷坂さんや金井さんよりも若い二人に、動揺が隠しきれない。しかし当の男の子は冷静なもので、愛らしい笑顔で自己紹介をしてくれた。
「はい!ぼくは三井戸 紫兎です。『じょうほうのかいじ』をしますので、ぜひ見てみて下さいね」
「ワシは昭原 梅。情報は見れるようにしておくけぇ、ちゃんと見てくろな」
こちらに向けられた二人の笑顔は、強さとはかけ離れている。むしろ、平和の象徴のようだった。
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三井戸 紫兎
昭原 梅
の情報を開示しました。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。