ヒュ、と喉元まで冷気が押し寄せる。決して本物を見たことがある訳では無いが、男の表情から、それが冗談で無いことは理解出来た。
男はどこか面白がるような声で続ける。その声は気を失う前のものとは全く違う。恐らく能力で変化させていたのだろう。
「お前も不運な奴だよ。ご愁傷様」
せせら笑う小さな笑い声が聞こえた。鼓動はすでに落ち着いている。身体は絶望を受け入れたらしい。心はまだまだ追いついていないが。
男はすぐに俺を殺すつもりは無いようだ。扉の向こうで声が聞こえる。きっと看護師さん達だろう。人がいなくなるまで、俺は生きていられるようだ。
「恨まないでくれよな。これも仕事だからさ」
コツコツと銃口を俺の頭に当てる。暇なのか、聞きなれたゲーム音と同じリズムを取っていた。
片手間に命を奪われるのかと、泣きたい気持ちをぐっとこらえた。騒げば今すぐにでも殺されるだろうから。一分一秒でも良い、長く生きたい。
「……おっちゃんさ、なんで俺を殺すんだ」
「あ?仕事だからっつってんだろ。言っておくが、依頼者については教えないぞ。シュヒギムってやつだ」
そう言ってゲラゲラと笑った。唾を飛ばすような笑い方が不快で、思わず眉をひそめる。
「おっちゃん警官じゃないのかよ。手帳持ってたじゃん」
「パチモンだ。ガキにはわからんだろうがな」
鼻で笑われた。武器も持たない子供の上、全身包帯だらけじゃ下に見られて当然だけど。きっと、俺の能力も知っているんだろうな。
あぁ、最期まで役に立たなかった。ちくしょう。
静かな涙が頬を伝う。死ぬのが怖くない訳じゃないけど、それよりも。
ただ、悔しかった。
扉の向こうの声が消える。どこかへ行ってしまったようだ。良かった、巻き込まなくて済んで。
そんな風に自分を慰めながら、横目で男の様子を確認する。男は銃を構えなおし、俺のこめかみにしっかりと銃口を添えていた。
「じゃあな坊主。死に際にしちゃ良い顔だぜ」
引き金に指がかけられ、そのまま──────
「アンタは間抜けな顔だな、偽物さん!」
男が吹き飛んだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。