第6話

4話
64
2020/09/24 11:26
 ヒュ、と喉元まで冷気が押し寄せる。決して本物を見たことがある訳では無いが、男の表情から、それが冗談で無いことは理解出来た。

男はどこか面白がるような声で続ける。その声は気を失う前のものとは全く違う。恐らく能力で変化させていたのだろう。


「お前も不運な奴だよ。ご愁傷様」


 せせら笑う小さな笑い声が聞こえた。鼓動はすでに落ち着いている。身体は絶望を受け入れたらしい。心はまだまだ追いついていないが。

 男はすぐに俺を殺すつもりは無いようだ。扉の向こうで声が聞こえる。きっと看護師さん達だろう。人がいなくなるまで、俺は生きていられるようだ。


「恨まないでくれよな。これも仕事だからさ」


 コツコツと銃口を俺の頭に当てる。暇なのか、聞きなれたゲーム音と同じリズムを取っていた。

 片手間に命を奪われるのかと、泣きたい気持ちをぐっとこらえた。騒げば今すぐにでも殺されるだろうから。一分一秒でも良い、長く生きたい。


「……おっちゃんさ、なんで俺を殺すんだ」

「あ?仕事だからっつってんだろ。言っておくが、依頼者については教えないぞ。シュヒギムってやつだ」


 そう言ってゲラゲラと笑った。唾を飛ばすような笑い方が不快で、思わず眉をひそめる。


「おっちゃん警官じゃないのかよ。手帳持ってたじゃん」

「パチモンだ。ガキにはわからんだろうがな」


 鼻で笑われた。武器も持たない子供の上、全身包帯だらけじゃ下に見られて当然だけど。きっと、俺の能力も知っているんだろうな。

 あぁ、最期まで役に立たなかった。ちくしょう。

 静かな涙が頬を伝う。死ぬのが怖くない訳じゃないけど、それよりも。


 ただ、悔しかった。


 扉の向こうの声が消える。どこかへ行ってしまったようだ。良かった、巻き込まなくて済んで。

 そんな風に自分を慰めながら、横目で男の様子を確認する。男は銃を構えなおし、俺のこめかみにしっかりと銃口を添えていた。


「じゃあな坊主。死に際にしちゃ良い顔だぜ」


 引き金に指がかけられ、そのまま──────



「アンタは間抜けな顔だな、偽物さん!」



 男が吹き飛んだ。

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