それから、図書室には行かなくなった
テニスコートにも
けれど、ある日
友達に替りに本を返しておくようにと頼まれた
正直、行きたくなかった
あなたがいるから
相変わらず、一人で本棚整理をしているあなた
明るい声で話しかけてくる
気がつけば、そんなことを口走っていた
いつかポロリと言ってしまいそうだ
好きだって
愛してるって
前世のことも、全部
あの日約束したことも────
いや、違くない
でも、肯定してしまえば、関係が壊れる
そう思ってしまった
君の笑顔が見られるのなら
この関係のままでいい
けど
誰かのものになってしまうくらいなら
君の笑顔が見られなくなっても………なんて
一瞬でも思ってしまった自分を引っぱたきたい
早口でそう告げるあなた
手は僅かに震え、顔はまだ赤い
本を手渡した時、指先が僅かに触れ合う
あなたの肩が、小さく揺れる
僅かな期待を込めた
でも、僕の勘違いなら、早く言って
もう、大切な人を失いたくないから
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!