………………
私は瞼を開けた。
目の前は真っ暗だ。
最初から期待はしてなかったけど、治してもらえないと
なると少しがっかりする。
あまり期待しないでおこう…
そして、ルチアは私の腕に手を当てた。
………………
私は手を上げた。
両手が軽々と持ち上がった。
すろと、私の見えるはずのない両目から涙が出てきた。
泣いたのなんていつぶりだろう。
そうしてルチアは私の腕を叩いた。
私は動けるようになった手で涙を拭った。
……………
有栖が私の腕を引っ張った。
私は後ろに転んだ。
そういえばルチアに時間を止められる前は
車に引かれそうになっていたんだ。
私は立ち上がってスカートを直した。
そう言う有栖の声は震えている。
まさか魔法で治してもらったなんて言えるわけがない。
信じてもらえないだろう。
有栖が私の手を掴んで飛び跳ねた。
有栖は泣き出した。
私は嬉しかった。
有栖が自分の事のように喜んでくれて。
そして、これからピアノが弾けるようになるかもしれない
希望ができた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!