あの告白から私は、重岡先輩に近づけずにいた。
失恋が、
自分の性格までも変えてしまうほどの事だと、
思い知った。
また、酷いことを言われて、遠ざけられたら…
私は いま以上に、落ち込んでしまうであろう。
あんなに、
私には、怖いものなんて無かったのに…
ずっと… 塞ぎ込んでいた。
でも…
先輩の事を、嫌いだと思うことは、
ほんの数ミリにも満たなくて…
それよりも、、、会えないほどに…
想いは…
私は、
自分では どうしようもない、
止めどない想いを どうにかしたくて…
重岡先輩の試合を、観戦する事にした。
この想いを、、、逝かせる為に。
_______
先輩を慰めようなんて思わない。
だって、私がそんなこと、できるわけないんだから。
だからこそ、声を掛けた。
煙たがられて、汚い言葉で罵られて…
そんな風にされれば、、、
重岡先輩を、1ミリでも、嫌いになれるかも知れないから。
こんなこと、本当にバカげてる。
そうは思ったけど…
それしか思い浮かばなかったんだ…
想いを、、、逝かせる方法が。
先輩は うつむき、"はぁ…"と、短いため息を吐いた。
こんな辛い時に、私なんかに会いたくなかったんだ。
久しぶりに会ったのに、少しも嬉しそうじゃない先輩を見て、
私は、そんな風に理解した、
のに…
今まで何度も一緒に帰るのを拒まれてきた私は、
いま、言われるなんて到底 思いもつかない言葉に、
我が耳を疑い、そんな先輩をも疑った。
先輩は「 ふっ、」と笑うと、そのままの微笑みで、
手にした重そうなカバンを肩に掛け、
そのまま帰る方向へと歩き出した。
私が追いかけてくる事を、なんだか嬉しそうにしている重岡先輩が、
私には違和感だった。
さっきまで、あんなに落ち込んだ様子だったのに…
やっぱり、歳下の私には、情けないところ、見せられないとか思ってるのかな…
とびきり頼りないもんな…
私の存在…
もう、うつむくしか無かった。
5歩くらい前を行く重岡先輩の足の動きだけが見えた。
このまま会話もなしにサヨナラだな…
今日にサヨナラとかじゃなくて、
私の この恋に、サヨナラだ。
私が居るからか、落ち込んでいるからなのか、
いつもとは違って、とぼとぼ歩く先輩。
時々、独り言みたいな言葉を発するんだけど…
なんて返したらいいのか分からない。
「 惜しかったですね 」とか… かな…?
そんなこと、私に言われたくないだろう。
これこそ「 惜しかったですね 」かな?
それとも「 残念でしたね 」、、、とか…?
あぁ、もぉッ! 何言っても皮肉に聞こえて仕方がないッ!!!
どうして、こんな語彙力ないのよッッッ!!!
自分のスキルの低さが憎いと感じる。
それに…
やっぱり、慰めて欲しかったりするのは、私ではないのだから…
私からの言葉なんて…
邪魔なだけだ…
私なんて…
邪魔なだけだ…
10歩後ろで立ち止まる私に、振り向いた先輩。
うつむいた顔は上げられず、先輩の目なんて見られない。
気づくと、ポロッと ひと粒… こぼれ落ちた涙。
やっぱ、泣けるよ…
最後なんだから…
10歩先から 勢いよく近づいてきた先輩は、
私の肩を掴んで、詰め寄って…
掴まれた肩に、ビクッ!とした私は、
さっきにも増して、深くうつむいた。
好きじゃないワケ…
嫌いになる訳ないよ…
今日の試合。
重岡先輩が、ゴールを決めた後、
私を見て、笑ってくれた気がして…
なんかのご褒美かと思った。
やっぱり好きって…
好きって…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。