たな、だい、トマ、やふ、はじ
※たなっちがモブレされてます(事後)
※対応は雰囲気です
※1年前に書いてたものなので色々古いかもしれません
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時刻は夜の11時。
たなっちがコンビニに行くと出ていってからもう4時間が経っている。
だい「ねええもうっ、たなっち遅すぎ!!
俺ら永遠に帰れないじゃん〜」
トマ「いやほんとに…何してんすかねえ?」
やふ「帰ってきたらシバく…」
トマ「あ!まさか俺ら、ドッキリ仕掛けられてる?」
やふ「『メンバーが戻ってこなかったら心配してくれるの?』とかってこと?勘弁してくれ〜!」
だい「んん〜、そんならまだいいけど…」
トマ「けど、なんすか?」
その時、玄関の開く音がした。
素早く反応したトマトクンがカメラを構える。
やふ「おっ、噂をすれば影やな」
トマ「回しまーす」
だい「コラァー!棚澤ァーーー!!!!
何時だと思ってんだーーーーーー!!!」
だいちぃの声が響き渡ったが、返事は無い。
階段を上がってくる気配も無い。
トマ「…たなっちじゃなかったっすかね」
だい「嘘めっちゃ恥ずいやつじゃん!!」
やふ「え、まさかだけどやばい奴?」
トマ「いや、たなっちはいつも鍵閉めるんで大丈夫っすよ、多分」
だい「はじめは東京だし…
やっぱたなっちだよな?何やってんだあいつ」
やふ「一応武器持って行きます?」
トマ「勇者の剣でどうすか」
だい「いやどうってお前…持ってくけど」
だいちぃを先頭に各々武器を(トマトクンはカメラを)持って階段を降りる。
玄関の方を見ると、特徴的なマッシュルームヘアが覗いていた。
だい「ねえ何か倒れてね?やっぱドッキリ?」
やふ「取り敢えず行ってみましょ」
皆が近づいてもたなっちは起き上がらない。
だいちぃが転がして仰向けにすると、小さく呻いた。
眉間にシワを寄せて苦しそうな、泣き跡のある顔が露になる。
だい「え何これ?たなっちどうした?」
トマ「ようへいくん、ちょっとカメラお願いします」
やふ「ん、うん」
トマ「あざす、
ん…脈とか呼吸はちゃんとしてますね」
やふ「まじでどうしたんや…たなっち~?」
だいちぃが頬をペシペシ叩いたり、声を掛けたりしていると、たなっちの口から小さい声が漏れた。
それとほぼ同時に、閉じられたままの瞼から涙がこぼれ落ちる。
たな「ぅあ…やめ、て……っ」
だい「おいたなっち?」
たな「…やだ、…っ助け…」
やふ「ねえ、さっきから思ってたんやけど……この匂い」
だい「…!ようへいくんっカメラ止めて」
やふ「、っはい」
トマ「嘘でしょっ…ねえたなっち起きて!」
トマトクンがたなっちを揺すると、濡れた瞼がゆっくりと開いた。
目の焦点の合わないまま、彼は怯え続けている。
体を引きずるように後ずさり、背中を壁につけて蹲る。
だいちぃが手を伸ばしても肩をすくめ、力無い手で拒絶するだけ。
たな「やめっ、、来なっいで、っは」
やふ「たなっち落ち着けっ、」
たな「も、…う、っはっ、はあっ、やだ…ぁ、ひ、っく」
トマ「たなっち大丈夫だよ、もう大丈夫だから」
たな「ひゅっ、はっ、あ、離し…、っふ」
誰の言葉も届かず、不規則な呼吸を繰り返すたなっち。
メンバーも焦りを隠せなくなってゆく。
そんな中不意にだいちぃが人差し指を唇に当てる仕草をメンバーに向かってしてみせ、そっとたなっちに声を掛ける。
だい「ほら…たなっち、俺の顔、見て、これ誰?」
たな「う、っは、、…だい、ちくっ、はあっ、」
だい「そう、じゃあこっちは?」
目が合ったのを確認し、だいちぃは強張った背中をさすりながら話しかける。
たなっちは瞳を揺らしながら目の前の人間を認識する。
たな「はっ、ふぅ、っと、ま…ん、っ」
トマ「っそうだよ、ようへいくんもいるよ」
やふ「安心して、俺らがついてるから」
だい「ゆっくり息しな、…そうそう、上手」
たな「んっ、はあっ、ひゅ、ぅ、は、っあ、はーっ、」
乱れた呼吸が段々戻ってきた。
その間にも涙は次々に流れ落ちて彼の頬を濡らす。
だい「大丈夫、大丈夫…」
落ち着いてきたのか、たなっちは小さく頷く。
メンバーはもう大体のことは察していたが、本人の口から聞くまでは認めたくないというのが本音だった。
話してくれる?何があったの?
思っていること、言いたいことは皆同じだ。
しかし誰一人口には出せず場は沈黙する。
たなっちもそれをわかっているのだろう、やがて途切れ途切れに話し始めた。
たな「……コンビニ、行こうと…したら、っう、誰かに捕まって…、む、無理やり……、っは」
だい「ゆっくりでいいよ」
たな「……お、…男の人、に、おそわれ…っ…、
っく、は、うッ」
ついさっきまで続いていた悪夢が、たなっちの脳裏にフラッシュバックする。
一瞬でも早く忘れてしまいたいのに、刻まれた記憶はそれを許さない。
口に含まされたモノの形と苦い精液の味、玩具の振動、奥に出された感触。
身体を容赦なく弄り回す手を、生々しく思い出してしまう。
気持ち悪い。
口を抑えておもむろに立ち上がる。
壁に手をつき、よろけながら歩く彼を
トイレに座り込み、便器に向かって嘔吐く。
たな「う、、っあ、けほっ、ゔっぇ…」
いつもの動画でネタにできるような、吐いて楽になるような嘔吐じゃない。しかも量がある訳じゃないから上手く吐き出しきれないようだ。苦しそうで目を背けたくなる。
背をさすってやるか迷っているうちに、吐き気が治まったのか顔を乱暴に拭いながらまた立ち上がる。
汚れた顔を隠すように俯いたまま呟いた。
たな「すみませ…、風呂……借ります」
トマ「一人で大丈夫…?」
言ってから、しまったと思った。
今は裸を晒すことが苦痛になるのかもしれないじゃないか。
倒れたりしないだろうかと心配にはなるが、黙って頷いた彼にはそれ以上言葉をかけてやれなかった。
トマ「…わかった、何かあったら呼んでね」
それでも完全に放っておけるわけもなく、シャワーの音がし始めてから3人でそっと脱衣所を覗いた。
脱ぎ捨てられた服を見ると、やはり、信じたくはなかったが、汗と精液で汚れている。
トマ「っ、、俺、はじめさんの服借りてきます」
だい「これ、洗う…?捨てたほうがいいんじゃ」
やふ「いや、そのままにしておいたほうがいいです、
…証拠になるかもなんで」
だい「あぁーくそっ、畜生」
今すぐ彼を抱きしめてやりたい。
でも、今はそれすら彼を刺激してしまうのだろうか。
浴室からはたなっちの押し殺した泣き声が聞こえる。
しゃくり上げる声に共鳴するように胸が詰まる。
やふ「俺、なんも…できねえのかな」
それはだいちぃも感じていた、どうしようもない無力感。
彼の傷を癒す方法を知ってる奴なんてここにはいない。
だい「でも、俺らがフラフラしてたらそれこそ良くない…って思う」
やふ「あ、…そっか俺らが、しゃんとしなきゃ」
だい「そうだよ、取り敢えずやれることを…えっと」
やふ「…まず警察に連絡、で、相談って感じですかね…あと、はじめくんにも」
トマ「服持ってきましたっ」
だい「ありがとともたか、じゃあ警察とか…連絡は俺とようへいくんでやろう」
やふ「はい」
だい「ともたかは今夜一緒に居てあげて、ここに泊まったらいいから」
トマ「え…俺、1人で」
だい「頼む」
やふ「智貴なら大丈夫、何かあったら電話してよ」
トマ「…分かりました」
2人を見送って、遂に自分とたなっちの2人きり。
弱りきった友達を支えなきゃいけない、自分一人で。
本当にできるのかと、心細さが増していく。
ああ駄目だしっかりしろ、1番不安なのはたなっちなんだぞ。
何度も何度も自分に言い聞かせる。
そうしているうちに、はじめさんの大きすぎる服を着たたなっちが風呂場から出てきて。
ありがと、うん、寝よっか、なんて短く言葉を交わして寝部屋の毛布にくるまった。
少しは安心できたのか、疲れもあるのだろう、隣のたなっちはすぐに寝息をたて始めた。
どんな言葉をかければいいのかわからなかった。
いつも強い彼が、今はヒビの入ったガラス彫刻みたいに見えて、触れることすら躊躇われる。
何かしてやりたいのに、少しでも痛みを和らげてやりたいのに、その方法がわからない。
…もどかしい。
どうにも寝付けそうになくて、せめてネットでそういう時どうしたらいいか調べてみた。
こんなふうに接して欲しかったとか、放っておいて欲しかったとか、結局人によるしどんどん分からなくなってしまう。
智貴が途方に暮れていると、ふと、眠っているはずのたなっちから泣き声が聞こえた。
原因はすぐに察しがついた。
たな「ふ、んぅ、〜っや、め、、も、やあ…」
トマ「ったなっち?!起きて起きて!大丈夫だよ」
たな「あ…ぅ、っ」
トマ「ここはHAPだよ、怖い人は居ないからね」
たな「…あ、ごめ…平気っ、だから……っ」
一瞬乱れかけた呼吸を落ち着かせたかと思うと、こちらを向いて口角を上げる。
まるで僕を安心させようとするみたいに。
傷ついてるのは君の方じゃないか、なんで、そんな。
たな「は…あんな野郎に…これ以上構ってやれる程、俺の人生暇じゃねえんだわ」
どうしてそんな強い台詞を吐くんだ、ボロボロの癖に。
今だってほら、また涙がこぼれているし、手の震えも全然隠せてない。
それなのに、濡れた瞳はまっすぐに自分を見ている。
返す言葉が見つからなくて、震える手を握ってぎゅっと抱きしめてみた。
腕の中でたなっちは少し体を硬くした様だったけど、ゆっくりと手を握り返してくれた。
たな「もう、大丈夫…」
トマ「うん…怖かったね」
たな「こわかった…」
トマ「吐き出していいよ、全部」
たな「…や、抑えられなくなる」
トマ「いいよ、いくらでも…受け止めるから」
たな「……ずっと…怖かった、気持ち、悪かった」
トマ「うん」
たな「やめてって言ってもっ…やめて、くれなくて」
トマ「うん」
たな「嫌だった、けど、逃げれなくて」
トマ「うん、」
たな「怖くて……助けに来て欲しかった」
トマ「…ごめんね」
たな「ごめ、ちがうっ、無理ってわかってるから…」
トマ「うん。大丈夫だよ、全然吐き出しな?」
たな「だいぶ、落ち着いた…けど」
トマ「ん?どした、言ってみ」
たな「……寝るの、こわい」
トマ「そっか…じゃ、うなされたら起こしてあげるよ、大丈夫。そばに居るから」
たな「うん、…ありがと」
トマ「おやすみ」
そっと頭を撫でると、少しだけ彼の表情が柔らかくなった気がした。
東京のはじめしゃちょーは自宅で遅めの夕飯を食べていた。
ようやく今日の分の仕事が済んだところで、明日に備えてそろそろ寝るかというところだった。
と、そこにスマホの着信音が鳴る。相手は大地くん。YouTuberなんて職業だと、こんな時間に電話、というのは珍しくもない。いつものように電話に出る。
はじ「はいはい?」
だい「はじめ、今大丈夫?」
はじ「丁度会議終わったとこだけど、どした?」
だい「えっと、緊急事態…なんだけど落ち着いて聞いてね。たなっちが…」
…
はじ「…は?え嘘、ガチで?」
だい「本当、…ガチで」
はじ「マジ…マジか、わかったすぐ戻る」
だい「明日も仕事あんだろ」
はじ「いいよたなっちのが大事だし、じゃね」
電話を切り、大きく溜息をつく。
まだたなっちに起きたことを受け止めきれずにいたが、そんなことを言っている場合ではない。
早く静岡へ、彼のもとへ帰らなければ。
終電を逃さないよう、急いで家を出る。
心の中は、大切な仲間を傷付けられた怒りと彼を守ってやれなかった悔しさとでいっぱいだった。
頭を掻きむしると、乾いたばかりの髪がぐちゃぐちゃになるのがわかった。
すれ違う人が少し怯えたような表情をした。
今、いつもは絶対にしない感じの顔なんだろうな。
愛想良くする余裕なんか無いのに、妙に周りが良く見えるし自分で引くほど冷静に脳味噌が回転してる。
それでも腸が煮えくり返るような熱さだけは変わらなくて。
あー、絶対許さねえ。
どこまでも特定して償わせてやる。
はじ「…覚悟しとけよ」
たな「ね、とまん…あのさ」
トマ「なーに?」
たな「おれ、ちゃんと今までみたく動画撮りたい、下ネタとかもね」
トマ「うん」
たな「ごめん正直、まだ整理つかないけど、絶対…戻ってくるから、待ってて」
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小説はこれで最後になります。ここまで読んでくださってありがとうございます。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。