テツ、たな
テツヤの、あったかくて柔らかかったらいいなっていう話。
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みんな静かに編集をしている午後、僕、テツヤは1人スマブラ部屋にいた。
息抜きとか言ってゲームをしに来る人がいないからみんな集中できているんだろうな。
かく言う僕もその1人。
人間の気分は天気に左右されるって聞いたことがあるけど本当にその通りで、今日は天気がいいから仕事も捗る。
カタカタカタ、パチッ、しゅーっ、カチカチ。
初めは右も左も分からず質問を繰り返し何とか完成させていた編集も、いつの間にか上手くなったもんだと我ながら思う。
同じシーンを何度も見て切り分け、繋ぎ、効果を加え、テロップを入れる。
地味で大変、だけど着実に進んでいくのが分かるから割と楽しい。
心地よい集中の中進めていると、ドアが遠慮するように開いた。
見ると、たなっちが隙間から顔を覗かせている。
テツ「どしたんすか」
たな「ん〜、一段落ついたし休憩」
そう言いながら部屋に入ってきて隣に腰を下ろす。
ツイ廃の彼らしくスマホを触るのかと思いきや、僕の編集画面を観察し始めた。
ジロジロ見られるとちょっと照れるななんて思っていると、視線はそのままにして僕の太めの腹を撫で始める。
まるで妊婦さんのお腹を触るみたいに丁寧に、まあここまではよくあるやつ。
でも抱きついてくるとは思ってなかった。
無防備だったせいで勢いに負けて倒れてしまう。
パソコンを落とさなくて良かったが、代わりに頭を軽く床に打った。
たな「うわごめんっ」
テツ「や、大丈夫です」
謝る癖に乗っかった体勢からどいてくれる様子はない。
それどころか完全にくつろがれている。
僕としては編集の続きをしたいんだけどな。
そんな気持ちも言わなければ伝わるはずも無く、まあ別にいいけどね。
体の上の彼は肉の感触を楽しむように無造作に二の腕を揉み、胸に顔を埋める。
時折笑い声が漏れ聞こえてきて、よく分からないがなんだか楽しそうだ。
たな「んへへ、あったけーなあテツ」
テツ「ええ〜…」
もう、しばらくは離してくれそうにないな。
諦めてパソコンを床に下ろし、彼に付き合ってやることにした。
彼がふと手を止め、しばし見つめ合う。
たな「トトロ?あなたトトロっていうのね!
…おれよりチビのくせに」
テツ「自分でやっといて言います?それ」
笑う僕を見下ろしながら彼は大きく欠伸をする。
そのまま目を閉じて頭を下ろし、彼は静かになった。
トトロ、と呟きながらメイと同じ仕草で、そこまで再現するのかと少し感心する。
しかし彼はいつまで経っても顔を上げない。
テツ「!ちょちょちょ、ここで寝ないでくださいよ」
たな「えーいいじゃん、昼寝タイム」
テツ「僕まだ編集あるんですけど…」
たな「ちょっとだけ、ね?」
あーずるい、その上目遣い。
もう本人も分かっててやってるんじゃないかと思う。
こんなので折れてしまう自分も自分だけど。
テツ「はいはい、…じゃあ下りてください」
たな「んえ?」
テツ「圧死します」
たな「あは、そりゃすまんな」
いそいそと体からずり降りて、僕を逃がすまいとするのか抱き枕のごとくしがみつく。
僕はノートパソコンをぱたんと閉じて応える。
寝てしまおうと思うと急に眠気が襲ってくる。
ああそっか、最近バタバタしてたし、お互い疲れてるんだよな。
そういえばさっき乗られた時も心なしか軽かったな、と思い返す。
今は落ち着いてるけど、きっとまたすぐに目の回るような忙しさがやってくるんだろう。
束の間のゆとりある時間。
忙しささえ楽しんでしまうのが僕らだけど、やっぱり一息つくとほっとする。
隣を見ると、抱きついたまま早くもすぅすぅと寝息をたてているたなっちの、赤ちゃんみたいな寝顔。
こうして見るとやっぱり可愛いんだよなあ。
お日様はまだ高いし、仕事も終わってないけど、すぐ横には寝顔。
時間が止まったような静かで平和な空気の中、今だけは全て忘れて寝てしまおう。
たまには、こんなのも悪くないな。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。