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第1話

たなっちが弱ってる話 
443
2020/12/30 04:59


たな、とま、やふ


BL要素無い(はず)です

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一通りその日の撮影を終えたHAP。
他のメンバーは用事やらで帰ってしまい、たなっちとトマトクンだけが残っている。

いつもならそれぞれ静かに編集をしたりゲームで盛り上がったりしているはずだが、今日は珍しく張り詰めた空気が漂っていた。



トマ「はあ?!何それ」


たな「お前が悪いんじゃんか!」


トマ「だからってそんな言い方しなくたってよくない?!」


たな「うるっさい、あー、もういいわ」


トマ「ちょ待って、ごめんってば」


たな「ついてくんなっ」



足早に階段を駆け下りるたなっち。
彼の声には涙が滲んでいて、喧嘩の熱も一気に冷めた。

寝部屋に閉じこもってしまった彼に、できるだけ静かに声をかける。



トマ「…たなっち〜、入ってもいい?」



たな「……ごめん、ちょっと頭冷やす、から、今は一人にして」



ドア越しにやっと聞こえた消え入りそうな声。
謝るのは俺の方だったはずなんだけどなあ、とトマトクンは思う。


トマ「わかった…」






二階のソファで編集を進めようとしたが、集中できずについ手を止めてしまう。
トマトクンはため息をついてパソコンを閉じた。



あいつ、まだ泣いてるのかなあ。
どうしよ、え、そんなにプリン食べられたのショックだった?
ん〜なわけないよな、どうしたんだろ。



と、トントンと階段を誰かが上がってくる音。



やふ「およ、ともたかまだ居たん」


トマ「ようへいくん、どしたんすか」



忘れ物、と言って編集部屋に入る彼は何も知らずにいつもの調子で話す。



トマ「…さっき、たなっちと喧嘩したんす」


やふ「ははっ、ほんで?負けたん」


トマ「俺が悪くて怒らせたんですけど、なんか、

   たなっち泣いちゃって…」



編集部屋から出てきたやふへゐ先生の動きが止まる。
こっちをじっと見て聴いてくれている。

今自分が行っても拒絶されてしまうだけかもしれない。
でも、彼なら。


トマ「今寝部屋にいて、一人にしてって言われたんすけど…しんどそうだったんで心配で、
あの、ちょっとだけ様子見てきてもらえませんか」


やふ「わかった」










やふへゐ先生が向かうと、鍵は閉まっていなかった。



やふ「たなっち?入るよ」



寝部屋は静まり返って、返事はない。
そっと入るとたなっちがうつ伏せに丸くなっていた。



たな「…よーへ、くん?」



かすれた声。
泣いてたんだなって誰でもわかるよ、それ。



たな「帰ったんじゃ、なかったんすか」


やふ「ん、忘れ物しただけ
   …ともたかが心配してたぞ」



横に座って肩を撫でると、微かに震えが伝わってきた。
あ、こりゃガチだ。
たなっちがこんなに弱っているのは珍しい。
そういえば最近元気なかったかもな、なんて今更だけど。



やふ「たなっち、どしたん?」



たな「ごめん、なさい、こんなの見せて」



かっこわりいっすね、なんて自嘲っぽく呟く。



やふ「なんかあったの、吐き出してご覧?
   よーへーお兄さんが聴いてあげるよ」



しばらくの沈黙のあと、彼は顔を伏せたままぽつぽつと話し始めた。



たな「最近、なんか、うまくできなくて」



やふ「うん」



たな「俺おもんねえな、って、思ったり…企画とか、コメでも言われてて」



やふ「うん」



たな「やる気あんの、とか、い、いらねえとか、って」



たな「ともたかも、ようへいくんも、皆、がんばっ、てるのに」





たな「俺だけ、頑張れて…ない気がして、置いてかれるみたいで、

みんな、優しいからっ、言わないけど」






たな「俺、邪魔じゃないのかなって、


ほんとは、いないほうがいいんじゃ、

居る資格も無い、んじゃないかなって」




やふ「…」



震えた声はそこで途切れ、嗚咽が小さな部屋を満たした。
んなわけねえだろ、そう伝えるための言葉をやふへゐ先生は必死で探す。



やふ「そっか、うん…話してくれてありがとうな、あと、
気づいてやれなくてごめんなあ…俺、最年長なのに」



グズグズと洟をすする音がするので、丁度部屋にあった箱ティッシュを側に置いてやる。



やふ「あのねえ、俺たなっちが頑張ってるの知ってるからな。
編集遅くまで残ってやってたり、はじめくんに企画の相談してたり」


たな「…そんなの」


やふ「たなっちが本当は努力家で、
誰より真面目で一生懸命だって、
見せないようにしてるつもりでも、皆わかってるよ。

そういうのってたなっちのすっげえ格好いいところだけどさ、
頑張ったのを無かったことにはしなくていいんだよ」



たなっちが泣き腫らした顔をゆっくりと上げる。



やふ「顔やべえなあ、ともたかに見せらんねえぞ」


たな「俺…でき、ないかも、しれないっすよ」


やふ「できなかったら誰かがカバーするよ、チームなんだから。

資格とかじゃなくてさ、俺はたなっちと一緒に動画撮りたい、これからも。
もうちょい付き合ってくんねえ?」



彼の目から再び涙が溢れた。
やふへゐ先生は彼の体を優しく抱き寄せる。



やふ「あーも、ほら」


たな「うー、やばい、絶対めんどい奴って思われた…」


やふ「たまにはいいでしょ」


たな「…ちょっとスッキリしたっす、ありがとうございます…」


やふ「んふふ、良かった。

じゃあもう呼んじゃうねともたかァーーーーー!!!」


たな「えっちょ待っ、うそ」


やふ「早く顔拭きなよ」


たな「くっそ〜、」



そんな会話をしているうちにトマトクンがドタドタと階段を降りてきた。
相当慌てているようで、壁にぶつかった音と同時に、いってぇ!なんて声が聞こえる。



トマ「たなっ、ち?」



あー、そんな顔させてたのか。
一人で落ち込んで、結局心配させて。
最低だなあ、俺。



たな「ごめん、心配かけて。
   もう大丈夫だから」


トマ「ほんと?そんなら、いいけど…
えっと、プリン…食べちゃってごめんね。
…仲直り、してくれる?」


たな「ん、…いいよ」


やふ「よし、じゃあもう皆帰るぞ!
ちょっといいプリンでも食いに行こ、今日は奢ってやるよ」


たな「いいんすか!」


トマ「え、やったー!!あざす!」


たな「いやお前さっき食ったじゃんっ」


やふ「いいから、
   早くしないと置いてくぞ〜」



平穏を取り戻したHAPに、賑やかな声が響く。
たなっちは赤い目をからかわれながら、それでも胸の温かさを噛み締めていた。





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