梅雨の夜だった。
その日は友達の家から帰る途中だった。
親を失くした私は、親の遺産とバイトで稼いだ金で一人暮らししていた。
夜ご飯を友達の親に振る舞ってもらい、泊まるのは流石に気が引けるということで夜遅くに帰宅することになったのだ。
しかし-それが私の運命を狂わせたのだった。
気が付いたら、道路に倒れ込んでいた。
見えたのは雨に濡れたアスファルトと車のタイヤ。そして、その車に乗っていたドライバーだろうか-あまり歳は変わらないだろう青年が私の様子を確認していた。
何故だろうか。
全身がひどく痛む。
ゆっくり右腕を動かす。
私の右腕は、血塗れだった。
それから、意識が途絶えた。
-県内の総合病院の病室
窓から差し込む陽光で目を覚ます。
目を開けると白い天井とが見えた。
-何処、ここ。
横を見ると茶色い机の上にぽつんと手紙が置かれていた。
背景-あなた様
先日はすいませんでした。
無事だと聞いて、胸を撫で下ろしています。
早く容態が良くなりますように。
几帳面な字で書かれた文面からすると、私はこの手紙の差出人に何らかの危害を加えられてここに居るようだ。
だが-
医師によると私の脳はダメージを受けたことによって記憶を失ったということらしい。
そして-何故私が病院にいるのか。
私がどれだけ血を流したのか。
なんで事故に遭ったのか。
私に家族はいたか。
私に友達なんていたか。
-どうしても、知りたかった。
あなたは肩を落として病室に戻った。
どんな人なのか会わせて欲しかった。
落胆した気持ちで病室に入ると一番奥の自分のベッドに横たわった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!