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第1話

記憶は突然消える
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2018/03/20 12:29
梅雨の夜だった。
その日は友達の家から帰る途中だった。
親を失くした私は、親の遺産とバイトで稼いだ金で一人暮らししていた。
夜ご飯を友達の親に振る舞ってもらい、泊まるのは流石に気が引けるということで夜遅くに帰宅することになったのだ。
しかし-それが私の運命を狂わせたのだった。
あなた

う……………

気が付いたら、道路に倒れ込んでいた。
見えたのは雨に濡れたアスファルトと車のタイヤ。そして、その車に乗っていたドライバーだろうか-あまり歳は変わらないだろう青年が私の様子を確認していた。
何故だろうか。
全身がひどく痛む。
ゆっくり右腕を動かす。
あなた

………え?

私の右腕は、血塗れだった。
あなた

…な………んで………?

それから、意識が途絶えた。



-県内の総合病院の病室
あなた

………

窓から差し込む陽光で目を覚ます。
目を開けると白い天井とが見えた。
あなた

………………?

-何処、ここ。
横を見ると茶色い机の上にぽつんと手紙が置かれていた。
あなた

誰から………って私の名前ってこんな名前だっけ…?

背景-あなた様


先日はすいませんでした。
無事だと聞いて、胸を撫で下ろしています。
早く容態が良くなりますように。
あなた

……差出人不明

几帳面な字で書かれた文面からすると、私はこの手紙の差出人に何らかの危害を加えられてここに居るようだ。
だが-
あなた

何も、思い出せない………

医師によると私の脳はダメージを受けたことによって記憶を失ったということらしい。
そして-何故私が病院にいるのか。
あなた

……交通事故、ですか

医師
ああ、昨晩緊急搬送されてきたんだよ君。
よくあんなに出血して生きていたもんだよ
あなた

……………

私がどれだけ血を流したのか。
なんで事故に遭ったのか。
私に家族はいたか。
私に友達なんていたか。
医師
脳にダメージはあったけどこの程度なら後遺症は残らないから安心して
あなた

………………………………………ですか

医師
ん?
あなた

記憶は……………戻るんですか?

医師
………戻る人の方が多いし戻らなかった人もそれはそれで幸せそうに生きているよ。
…どう生きるかはあなたさん次第だよ
あなた

じゃ、じゃあせめてこの手紙を書いた人は……私を轢いた人はどんな人でしたか!?

-どうしても、知りたかった。
医師
…受け付けが受け取ったので受付に聞かないとちょっと…
あなた

…………そう、ですか

あなたは肩を落として病室に戻った。
どんな人なのか会わせて欲しかった。
落胆した気持ちで病室に入ると一番奥の自分のベッドに横たわった。

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