「はあ、本当はあなたに預けるのも嫌ですけどね。でも有紗さんがどうしてもあなたがいいって言うからはあ」
七海はため息をつきながら有紗の子守りを五条に任せる。
最後に、彼は有紗に「いい子にしているんですよ。」と言った。
幼女の皮を被った有紗は無邪気に「うん、分かったー。」と答える。
「五条さん、有紗さんは可愛くて気立てが良くて賢くて、行儀が良くて優しくて、華やかでありながら物静かで、たまに見せる幼さが愛らしい淑女です。くれぐれも変な気を起こさないように。」
有紗をべた褒めする七海に五条はこう言う。
「知ってたか?七海。本物の淑女は人の頭を蹴らないんだぜ」
有紗はビクリと肩を揺らす。
七海は「は!?」とだけ言って任務へ向かった。
「で、ロリ、何するか?お人形さん遊びか?」
その小さな体を腕で支えながら机の上に上る有紗にできるだけ優しく声をかける
「この、プリン泥棒ーーーーーッ!!」
昨日も聞いたセリフを五条に投げ捨てながら有紗はドロップキックを食らわせる。
いくら幼女とはいえ、全体重を載せた渾身の蹴り。
五条は数メートル程後退し、叫ぶ
「俺はプリン泥棒じゃねえっつーの!!」
「はんっ、証拠だってあるのよ?嘘ついたって無駄よ!」
「ほお、じゃあその経緯を教えて貰おうじゃないの」
「えっとね、まずね。灰原お兄さんがね、プリンがないって叫んだの。これは窃盗事件だって大喜びして有紗調べ始めたの。」
「で、そこに甘いものが大好きな男が現れたってわけか」
「うん、そー」
「でもなロリ。俺にゃアリバイがあるんだ。わかるか?アリバイって」
「うん知ってるー。現場不在証明のことでしょー?」
無邪気に答える有紗ではあるが、愛らしい顔に『現場不在証明』という言葉は不釣り合いである。
「そ、俺は灰原のプリンが盗まれた推定犯行時刻の間、ずっと傑と一緒にいた訳。」
「ほんとにー?ずーっと?トイレにも行かずに?」
「トイレに行ったことは行ったけどよ.....」
正直1人になった気もするが、まあ自分のアリバイのためだ。ここは嘘をついておこう。
「じゃあその日のことぜーんぶ教えて?」
「ったく、仕方のねえロリだな。」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
その日俺は傑と硝子と、寮の一室でトランプなどのゲームをしていた。
「ん、私はトイレに行ってくるよ。」
「あ、俺も行く。」
「ん?そうか?行ってらっしゃい」
1人ジグゾーパズルを完成させようと格闘する硝子を部屋に残し、トイレに向かった。
「ねえ悟、灰原は今日任務だったっけ?」
「ああ、七海もな。あと2時間くらいで帰ってくるんじゃねえか」
と言いながら、共用のゴミ箱にチョコレートの袋を入れる。ちなみにこの時はまだ、プリンのゴミはなかった。(4時頃)
トイレから帰り、部屋でゲームを再開し、およそ2時間。
灰原と七海が任務から戻り、冷蔵庫を開けたらしい。
「なあああああああああああああい!!」
と灰原が悲鳴をあげる。何がないのかと聞けば、冷蔵庫に入れていたプリンがなくなっていたらしい。
共用の冷蔵庫に入れていたため、誰かが間違えたのではないかと言う結論に至ったが、灰原は名前を書いて冷蔵庫に入れたとか何とか。
その後プリンを探すが、共用のゴミ箱に中身の無くなったプリンのゴミが捨てられていた。
つまり犯行時刻は4時から6時の間。
硝子は甘いものが嫌いなため除外。となれば俺か傑だが、その間ずっと一緒に居たため。アリバイが成立。
というわけで事件は迷宮入りした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。