そして歌を披露するとき
LIVEのときのように俺を力いっぱい抱きしめて
背中を押してくれた
歌のラスト
先輩にしかわからないことを歌った
最後にするから
立って手拍子をしていた先輩が泣き崩れた
太我がハンカチを渡そうとしても
そんなの無視して泣いた
先輩たちの卒業LIVE
俺が先輩たちに向けてつくった歌の歌詞をいれた
気づいてくれた
よかった
歌い終わって、拍手が鳴り止む前に
走って式場の外に出た
達也くんに問いながらも
自分で心の整理をしたかった
あの時とは違う
達也くんは泣きながら
そう言ってくれた
涙が溢れそうになったのを堪えて
みんながいる所へ向かった
顔を手で覆いながら先輩は言う
自分の気持ちにケリをつけるために
駐車場に向かった
先輩はずっと着いてきた
先輩はまた泣いた
泣き虫な先輩を置いて、俺は車を走らせた
素直に伝えられた
そう思いたかった
嘘だらけの告白
その日、携帯が鳴り止むことはなかった
着信の表示を見ても、非通知
出る気なんてない
非通知だから
にしても、みんな笑いながら泣いてたな
俺は…
泣いてないな
泣けねえよ
こんなん絶対
捨てらんねえよ
愛情なんて
もういらねえよ
友情なんて
くそ…
ひとり車で泣いた
もう終わりだから
言えねえよ
おめでとうなんて
言いたくねえよ
さようなら、大好きでした
俺はいい後輩でいたいから
いい仲間でいたいから
溢れて止まらない涙を袖で拭った
着ていたのは
達也くんが青で
太我が赤
俺は黄色
涙で少し濃くなった黄色のスーツを見て
笑った
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。