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第12話

誰でもってわけじゃない
 「誰の記憶でも消すわけじゃなかったんですね。」 

はなちゃんを森林の先の公園まで送り、またお店に戻ってきた。外にはもうCLOSEの看板が掛けてある。今は貸切状態だ。

「このお店自体、必要な人にしか見つけられないはずなんですよ。」

「じゃあ、はなちゃんは?」

「あの子は年齢の割に、大きな悩みを抱えていたからこのお店は必要でした。」

そう言うと 3つのマグカップを洗い流す。

「僕は一昨日、彼女が亡くなったことを受け入れられなくて、このお店に来たんじゃないんですか?」

「まあ、そんなところです。」

それじゃあ今の悲しみとあまり変わらないんじゃないかと思ったが、喉の奥で止めておいた。

「でも、これからを長い目で見た時、必要以上に自分を苦しめる過去ってあるんです。それは誰かのなにげないひと言だったり、自分の過ちだったり、大切な人の死だったり_______________。」

「最後のやつ、僕じゃないですか。」

そう言うと、「そうですね」と笑った。

「僕の記憶、消して正解だったと思いますか?」

「間違いでした。なんて言ったらあなたが文句を言いそうなので言いません。·····まあ、でも悪い結果ではないと思います。」

彼女にしては歯切れが悪いが、最悪の結末ではない事が確認できてよかった。

「私は魔法使いでもなんでもないので、与えられた能力を使い切るしかないんですよ。」

記憶を消せるのに魔法使いじゃない。その事実に若干驚きを覚えつつも、少々ファンタジー小説を読みすぎたなと反省する。

「使い切り、なんですね。」

インスタントカイロみたいだ、と思う。

「元から備わっているわけないじゃないですか。」

「悪魔と契y·····「ないです。」」

またいつもの真顔で切り捨てられた。

「·····で、一気に誰かの記憶を消しちゃえば1回でこの能力は終わりなんですが、それじゃあもったいない気がして。それで私、いろんな方の『忘れたい記念日』を消すことにしたんです。」

「『忘れたい記念日』?」

聞いたことがない言葉。頭の中でゆっくりと噛み砕くが、理解からは程遠い場所にいた。

「例えばですよ、友達と喧嘩したとします。『そう言えば、あいつと口聞かなくなってもうすぐ1ヶ月経つなぁ。』とか思ったりしません?」

「します、します!」

「それも一応、記念日なんですよ。いい事じゃなくても、自分の中に勝手に浸透していたらそれはもう、記念日。喧嘩記念日です笑」

「なんか嫌な名前ですね。」

初恋の人の誕生日をスマホのロック番号にしている時もあった。それは多分『初恋の人誕生日記念日』になるんだな。すごく長い名前だが。

「いろんな悩みを持つ方がここに来ますが、よく選別して本当に消しても大丈夫か、何度も確かめて消去作業に移るわけです。」

「なるほど。」

「だから今のところクレームを付けたのは裕翔さんだけです。」

「そうなんですか·····、」

何だか申し訳ないなとも思うが、まあ仕方がなかったと開き直る。

「あれ、僕って名前言いましたっけ?」

「あー、多分最初に聞いたと思います。はなちゃんの時も尋ねましたし。」

「そうですか。」

「そうです。」

店の外はもうすっかり暗くなっている。そろそろ出た方がいいかと思いカウンター席から立ち上がろうとすると、

「私、今日でもうこのお店終わりにしようと思います。」

「まさか、赤z「そんなわけないでしょ」」

鋭くツッコミを入れられた。

「だから最後にひとつだけ特別なことを教えてあげます。」

「彼女さん、ありがとうって思ってますよ。

1年間も縛り付けて、苦しめてごめんね。

私はもう大丈夫だから、あなたも前を向いて自分の人生を生きてねって言ってます。

そうすれば、私がいなかった間に下着の入っているタンスを覗いたこと、許してあげるからって。」

「どうして、それを·····!」

「さあ?どうしてでしょう?」



彼女は意地悪く笑うと、さようならと優しく呟いた。








_______________「ほら、もう時間ですよ。」