どのくらいたっただろう。相変わらず薄暗い場所なので、空からじゃ時間が読み取れない。
「あの·····っ、大丈夫ですか?」
気がつくとランドセルを背負った女の子が目の前に立っていた。
「あ、ああ、大丈夫。ごめんね、驚かせちゃって。」
黄色い登校帽子を目深にかぶっていて顔はわからないが、「そうですか、良かったです。」という声は身長の割に落ち着きがあって、大人びていた。
「·····君、何か忘れたいことがあるの?」
不意に思ったことを口に出す。女の子ははっとして口をぎゅっと噛み締めた。
「あ、いやっごめんね。変な意味じゃなくて。僕もこの店で記憶を消してもらったことがある。」
「そうなんですか?」
「うん。でも、大切なことを消してしまったみたいで·····でも、もう手遅れなんだ。いちど忘れたら、取り戻せないらしい。」
「私は、思い出せなくなってもいいです。むしろ、そうであって欲しい。」
こんなに幼い女の子がいったい何を忘れるっていうんだ。
「じゃあそんな君にあえて言うんだけど、このお店は良くないよ。」
「えっ?」
「店主が冷たいんだ。記憶を消せますと自分から持ちかけてくるくせに、消したあとはどんな結果になっても責任どころか、話すらまともに聞いてもらえない。僕はさっき店から追い出された。」
「そんなぁ·····」
女の子は悲しそうに顔を歪める。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。