「いらっしゃい。」
× × ×
公園前の路地を右に曲がり、少し森林を歩いた場所にあった掘っ建て小屋。近寄って見ると「OPEN」と書かれた札がぶら下がっていた。
それ以外は何も書かれていない。なんの店なのか、そもそも店なのかも曖昧だ。
独特のオーラを放ってはいたのだが、好奇心というのは恐ろしいもので、僕はドアにそっと手をかける。
低くベルがなった。1歩踏み出すと床がギイっとうなる。見かけと異なり、店内はウッド調だ。どこか懐かしいアロマが身体中を包み込む。
カウンター席しかないようだ。店員と思わしき女性がこちらを見つめていた。20代後半くらいだろう。
「今日は、どうしてこちらへ?」
メニュー表を渡すよりはやく、尋ねる。
そりゃあそうだろう。今は午前10時。普通の会社員ならパソコンと向かい合う頃合だ。スーツを着た男がふらっと立ち寄るのはおかしい。
「あぁ、サボりとかではないです。ただ興味があって。こんな所に店があったん·····」
「そういう意味ではなくて。」
遮るように店員が制した。
「ここは普通の人は来れないんですよ。」
「普通の人?僕は芸能人とかじゃないです。何かの間違いではないですか?」
「何かの間違いで来れるようなところじゃないです。」
僕は困惑する。独特なのは店構えだけではないようだ。
「まぁとりあえず、座りませんか。ハーブティー入れますよ。」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。