前の話
一覧へ
次の話

第1話

いらっしゃい【20代後半、男性客】
1,649
2019/10/14 14:56
「いらっしゃい。」

× × ×

公園前の路地を右に曲がり、少し森林を歩いた場所にあった掘っ建て小屋。近寄って見ると「OPEN」と書かれた札がぶら下がっていた。
それ以外は何も書かれていない。なんの店なのか、そもそも店なのかも曖昧だ。

独特のオーラを放ってはいたのだが、好奇心というのは恐ろしいもので、僕はドアにそっと手をかける。

低くベルがなった。1歩踏み出すと床がギイっとうなる。見かけと異なり、店内はウッド調だ。どこか懐かしいアロマが身体中を包み込む。

カウンター席しかないようだ。店員と思わしき女性がこちらを見つめていた。20代後半くらいだろう。

「今日は、どうしてこちらへ?」

メニュー表を渡すよりはやく、尋ねる。
そりゃあそうだろう。今は午前10時。普通の会社員ならパソコンと向かい合う頃合だ。スーツを着た男がふらっと立ち寄るのはおかしい。

「あぁ、サボりとかではないです。ただ興味があって。こんな所に店があったん·····」

「そういう意味ではなくて。」

遮るように店員が制した。

「ここは普通の人は来れないんですよ。」

「普通の人?僕は芸能人とかじゃないです。何かの間違いではないですか?」

「何かの間違いで来れるようなところじゃないです。」

僕は困惑する。独特なのは店構えだけではないようだ。

「まぁとりあえず、座りませんか。ハーブティー入れますよ。」

プリ小説オーディオドラマ