第28話

知なき者
46
2021/01/27 12:10
ユカの攻撃を、ユウジは難なく避けていく。
その表情は先程までの必死さはない。
それに対して、ユカの表情はどんどん余裕を無くしていく。
しかし、決して退屈しているようではなかった。

「君、なかなかやるな!」

ユカはより拳を強く握って勢いをつけてユウジに繰り出す。
それでも、攻撃がユウジに当たることはなかった。

その様子を、マクロブ対策機構日本語支部の司令室も見ていた。

「何が起こってるの……一体」

ミサキはそう声を絞り出すと、バイタルの表示を見る。
どうやら体温や心拍数が変化しているらしい。
ユウジの内部で何かが入れ替わったのだろう。

「凄い!どんどん押してってるよ!」

フランシスカが楽しそうにHMシリーズ同士の戦闘を眺めている。
対して隣にいるアツキは、深く考え込んでいるようだった。

「おーい、隊長ー!何難しい顔してるのー?」

アレックスがアツキの肩に手を置き、話しかける。
だがアツキが気づいている様子はない。

「こりゃ熟考モードに入っちゃったねー、まぁいっか!おーい、テンドウ隊長ー」

アレックスは楽しそうに叫んでいるフランシスカの横を通り過ぎ、カケルの様子を見てみる。

「お前もお前でどうしたんだよ……」

カケルは、顔に笑みを浮かべてユウジの戦うさまを食い入るように見つめていた。
どんどんユカを劣勢に立たせている。
力を全て使っているマクロブというのは本当に凄いものだ、とユウジは感心していた。

「HM-001、聞こえる?」

ミサキが通信機に向かって声をかけると、ユウジの動きが止まった。
もしかしたら通信が出来るというのを想定していなかったのかもしれない。

「覚悟しろ!HM-001!」

ユカが足を振り上げ蹴りを放つ。
ユウジは慌てた様子で後ろに跳ぶと、耳から通信機を外して

「うん、聞こえてるよ。ユウジの妹だよね」

「え、ええ……そうだけど」

ミサキは戸惑った様子で答えた。
話をしているのは恐らくユウジではない。
なら一体何なんだろうか?信用しても大丈夫なのだろうか?
いや、信用するしないではなく、今はこのHM-001の姿をした何かを信用するしかない!

「じゃあ、今からあなたに新しく指示をするわ。喋ってくれれば耳に付けてても通信出来るからまずはそうして」

HM-001は、はーいと返事をしながら耳に通信機をはめた。

「HM-001、そっちにいるユカってマクロブを倒しなさい。回避ばかりでなくて良いから。それともう一つ」

「何?あんま難しい事は出来ないよ」

「大丈夫、あなたの名前を聞きたいの」

するとHM-001は顎に手を当てて、少し考える素振りを見せた後

「特にない、けど……M-650-JPNって人間は呼んでたよ」

ねぇそれってさ!と、フランシスカが司令室内で叫んだ。
M-650-JPNは自己再生をする力を持ったマクロブで、7人の犠牲を出し討伐したマクロブだ。
それに自己再生の力は活用出来るかもしれないと消滅前にDNAサンプルの回収もナガシノによって行われた。

「ねえ、M-650-JPN?」

「はあい」

「人間は好き?」

「ユウジが好きなものは全部好きだよ、もちろんミサキの事もね」

「……早くやりなさい」

「うん、良いよ」

M-650-JPNはユカの方へ跳び、そのまま勢いをつけて蹴りを放つ。

「ぐっ……!」

ユカは腕を交差させて蹴りを受け止めるが、耐えられず数歩後ずさる。

「俺には思考力がない、だけどユウジの大切なものは全て大切なんだ。それで君は敵。だから殺すんだ。俺たちは与えられた目的を遂行する機械だからね」

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