「ユウジさん、ユウジ・シノノメさん、聞こえますか?」
暗闇から声がする。何とかして答えたいが声の主がどこにいるのか分からない。
というか自分は今まで何をしていたのだろうか?
それすらしっかり思い出せない。確か……叫び声とか白い光を見た気はする。
あれ?あれはなんだったけ……
「ユウジ・シノノメさん!目を開けて下さい!瞼上にあげて眼球こっちに見せる!おーけー!」
「……!」
そうか、今まで目を閉じていて眠っていたのか!
声の主に指示されるがまま目を開けると、目に入ったのは眩しい光だった。
すぐに瞳孔が明るさに適応し、周りの景色が見えるようになる。
「ここは……?」
兵器とはまた違う薬品の匂いに無機室な白い壁、どうやら寝かされているらしく前を見ると、蛍光灯が視界に入る。
「シノノメさん、ご自身の身に何が起こったのか覚えていますか?」
「あ……えっと」
確か、討伐部隊隊長のテンドウさんが来て、新兵器の威力テストをしていた筈だ。
それで、機械が不備を起こして……
「ミサキ!ミサキは、無事なのか!」
起き上がろうとするも体に全く力が入らない。まるで頭から下の部分が全て消失してしまったかのような感じさえする。
「落ち着いて下さい、ミサキさんは軽傷です」
「そうか…それならよかった」
軽傷がどの程度なのかは分からないが重大な怪我に繋がらなくて良かったと思う。
もう家族を失うのはごめんなんだ。もう10年以上前の話だが。
「問題はミサキさんではなくあなたの方ですよ、ユウジ・シノノメさん」
医者の方はそう言うと、ユウジにタブレット端末の画面を見せる。
そこには人体の図が黒とか赤に塗られたものが表示されていた。ユウジが図を見ているのをかくにんすると、医者は再び口を開き
「この下半身の黒く塗られたところは切断した部分です。運ばれたときには完全に焦げていて、治療は不可能でした」
「……切断って、どういう事だよ」
「言葉通りの意味です。まだ麻酔が効いているので分からないでしょうが、ミサキさんの了承を得て再生不可能な部位は切断させて頂きました」
ユウジは何も言わずにうなずいた。ミサキの許可があったのならば仕方がない。
「それで、次の赤く塗られた右腕を除いた上半身の部分なのですが、ここは脊髄の一部を除いて神経は全焼です」
「嘘だろ……」
これじゃあもう動くことも出来ない。
それに脊髄損傷したのなら麻酔が切れれば想像を絶するような痛みが襲ってくるだろう。もう生身の体でいるのは不可能かもしれない。
「現在可能な治療法ですが、脳が無事なのでそこから人工神経を入れて、体の損傷部分は全て機械に取り替えるしか仕事復帰の出来る治療はありません。それか昔の様に車椅子で身体補助の道具を使って生活するか、もう一つ、これはまだ動物実験でしか成功した事はありませんが、」
医者は少し話すのを躊躇った。しかしユウジは
「何だ?聞かせてくれ」
もしも仕事に戻れるかもしれないというのなら、何でもいい。
それに体を機械にしてしまえば一部の兵器実験に支障をきたしてしまう可能性もある。
「この前討伐されたマクロブが、自己再生の出来る塩基配列を持っていました。その遺伝情報を取り込めば、全て治るかもしれません」
たしかにマクロブは未知の生命体であるし危険性は高い。それでも今回失った部位が全て復活する可能性を考えれば
「それじゃあ、お願いします」
危険なことでも挑戦する、兵器開発もきっと似た様なものだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!