第87話

サジタリウス
30
2022/02/23 14:53

「…………!」

ユウジがギリギリで後ろに跳ぶと、先程まで立っていたところに深い穴が造られている。仮に避難用のシェルターに当たっていたら、余裕で貫通していただろう。

「HM-001、損傷は?」

冷たい声でミサキが尋ねてくる。ユウジは問題ないと答えたが、内心は焦りや恐怖に満たされていた。ユウジには立場上、どこに人が避難しているかの詳細な情報まで与えられない。自分も無意識に人を殺す可能性がある。そうしたらミサキに本当に嫌われてしまうかもしれない。それが何よりの恐怖であった。息を整えながら体勢を直していると、通信機から次はトウヤの声がしてきて

「恐らくだけど、また連続攻撃が来る。避けるなりなんか弾くなりやってみてくれ!」

ユウジはその指示に答えるよりも前に移動を開始する。破壊された建物の残骸を踏み潰しながらも、地面を強く蹴って高く跳び上がった。当然だが、そこで弓の形をしたM-889-JPNはユウジに矢の大量射出を行う。そこに咄嗟にユウジは腕を交差させて、頭部を防御するだけに留めた。思い切り着地に失敗し、尻もちを着くが血のような液体の出る体に無理やり再生を促して、体勢を整える。その行動に対して、トウヤは意図を理解したようで

「あー、分かった!そのまま体にあれの耐性つけて、αといれかわるんだな!」

「正解、アイツならもっと俺より動ける」

ユウジはトウヤにそう答えて、目を閉じてαと意識を切りかえる。赤い目をしたαは何が起きているのか把握すると、M-889-JPNを視た。相手はもう一度威力の高い大きな矢をαの方へと構えており、αに当てる気しかないのは見て取れた。しかし彼は動こうとしない。

「HM-α、今すぐ回避行動を取って。その攻撃の威力はその肉体の耐えられる強度を超えています」

αはそのミサキの指示に対して、冷静に相槌を打ち

「知ってる。でも、これに賭けさせてほしいな。勝てるよ、ユウジの考えた作戦だから褒めてあげるのは彼にしてね」

ミサキのため息のつく声と、トウヤの頑張れよという声が同時に耳に入ってくる。αはM-889-JPNの矢の向きや弓が引かれていく様子を必死に見つめる。司令室では、モニターに映るその様子をミサキとトウヤが必死に見つめていた。するとふと、トウヤは時間を確認すると、隣に立つミサキをちらりと見て

「ミサキ、悪いけど少しやり忘れた仕事があったから、ちょっと戻るぜ」

ミサキがそれに頷くのを見るよりも前に、トウヤは司令室から飛び出した。


そして廊下を足早に歩いていき、隊長が会議をする小さな会議室を通り過ぎて裏口から外に出る。

「お会いできて光栄です。遺伝子により人類のさらなる発展へ貢献したシノノメのチームの一人」

トウヤは、そこに立つ人物をそう称えると話を始めようと息を吸った。

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