第77話

対峙する者
30
2021/08/07 21:00

HM-αと名付けられたユウジの中に潜むマクロブは、ヨコハマに再出現をしたM-712-JPNの前に正対した。

「驚くほどに厄介、同胞の中でもかなり最新鋭だね」

αアルファは通信機に聞こえるくらいの声量で話す。
元々マクロブとして製造されているのもあり、恐らくマクロブ対策機構、通称MCMの人間よりはマクロブに関して情報を持っているのだろう。
ミサキはその言葉に対し

「あれの攻撃は強度25を我々の計測では示しています。そして有効な対策は何もありません。そちらで何か分かることは?」

「たしかに攻撃の強度は高い、この体も貫通するし、あれを上回る強度のやつはHMシリーズの中でも少ないと思うよ。でも、本体の人工衛星は大して固くない。俺の推測だけど、強度1.8以上2.7未満くらい」

そのαの解答を聞いて、トウヤが通信機に向かって話し

「おお!お前天才だな!見ただけで推定強度出せるとか!この俺の子分にしてやってもいいぜ」

「それは別にいいよ、お前の子分とかめんどくさそう」

一番ユウジの言いそうな返答をすると、飛来する隕石をギリギリまで引き付け、‪α‬は後ろに跳び、一回転して着地した。




マクロブ対策機構報告会議は数日にかけて行われ、その間に多くの国の支部が定期報告を行っていた。
内容は主にメビウスやマクロブ対策機構軍の支援問題だが、それでも未だに解決しない問題もある。

「本日報告予定の内容は終わったので、キサラギ支部長」

本部長エドワードはミズキに視線を合わせる。
ミズキは心底面倒臭いと言った様子で

「結論は変わらないと言いました。これ以上続ければ、あなたの信用問題にも関わるかと」

ミズキがそう話したところで、エドワードの姿勢は変わらないし、初日と比べると周辺国の同調も落ちている。
主に賛同国が発展途上国に集中していた故、本部からの支援が大きいからだろうか、否。
それよりも大きな理由、恐らく本部アメリカに支援をする存在だ。
ミズキは視線をロシア支部長アレクサンドルに映す。
特になんの異常もなく報告を済ませ、会議の様子を聞いてはいるが、裏では本部と組んででもいるのだろう。
それとも、ロシアの唯一の他国牽制材料であるもの。
マクロブを単機で撃破する兵器、白銀砕きの駆動兵だろうか。
それを利用してロシアは積極的に他国支援をしている。
戦力の誇示かと思えば、こういう事態で支援国を味方に付けるという手段も予め考慮していたのだろう。
故に、マクロブへの対抗戦力を多く持たない国にニホン支部の肩を持てば支援を切ると脅したのだ。
自らの思考の浅ましさに、ミズキは頭を抱えた。

「キサラギ支部長、あなたの気持ちも理解出来る。しかし、かなりHM-001も苦戦続きではないか。良い環境を整えて、戦闘に万全を期して貰えるようにするのが、元人間の彼のためでもあるんじゃないかな」

「あなたに彼の何が分かるんです?こちらにもこちらの都合がある。彼は戦闘兵器ではないし、戦いの後に破棄するという内容がある限りこちらは締結するつもりは無い」

エドワードが何日も聞いたその返答にため息を着くと同時くらいのタイミングに、厳重に電子ロックをかけられていた扉が大きな爆発音のようなものをたてて砕けた。

エドワードとミズキも含め、その場にいた一同がいっせいに扉の方を見る。
粉塵の中から人影が現れ、それはこちら側へと歩き出した。

「シンプソン本部長初めとした皆様、お初にお目にかかります」

浅黒い肌に、真っ直ぐした白い髪の青年は深々と頭を下げる。
その顔は整っており、扉を破壊したような印象を与えなかった。

「君、いきなり入ってきて無礼じゃないか!まずは名乗れ!」

ブルガリア支部長エレノアは一歩前へ出て、招かれざる客を睨みつける。
他者の静止をものともせず、目の前の若い男と対峙する。
対して、男は柔和な笑みを浮かべたままで

「それもそうですね、勇敢な方。確か……ディミトロワブルガリア支部長でしたね。私はリガード。ネーション=ウルティマの者です」

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