第10話

打開を目指して
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2020/12/01 13:20
ダメだ、このままではこのマクロブに引きずり込まれてしまう……!
ユウジはそう本能的に察していたが、赤いマクロブの腕を振り解く事が出来ずにいた。
加えて思いっきり倒そうと体当たりをしたタイミングで片足を切断されてしまい、まだ再生していない、というかこの状況で再生に時間を使えば確実に首をはねられる。

「くそが……どっからそんな力でてきてんだよ……」

思わず弱音が口をつく。
こんなことを言ったところで自分がどんどんと引きずり込まれているのは変わらない。
お願いだ、だれか俺に力を分けてくれ……。
誰でも良い、本当に誰でもいいから何か言ってくれれば少しは状況を変えられるかもしれない。
数多くのかつて都市を作っていた瓦礫を巻き込みながら、なんの根拠もないのにユウジはそう思った。
きっと無意識に助けてほしいと思っているのだ。
こんな風にマクロブと戦うのは自分しかいないのに。
痛みと絶望で頭がぼーっとし始めている時、ユウジの耳にかつての妹の声が響いた。

「お願い!戦って!……兄さん!」

それより少し前、司令室では部下から報告を受けたミサキが呼吸を整えられず混乱を収められていない様子でいた。

「あの……大丈夫ですか?シノノメ司令官」

ユウジのバイタルチェックをしていた青年は心配そうにミサキに問いかける。
一応ミサキとHM-001の関係性は知っているのもあって、あまり彼が窮地に陥っている状況は見たくないのではないか?と、青年は考えていた。
実際HM-001が他のマクロブ相手に不利になっているところは見たことないし、ミサキの反応も仕方がないと思ってもいたのだ。

「大丈夫よ、大丈夫」

その言葉はミサキにとって自分に言い聞かせているようなものだ。
そう言ってミサキはモニターを見つめる。
ユウジは抵抗しているようだったが、M-656-JPNの方へどんどん引きずりこまれていくだけだった。
まわりの瓦礫をどんどんと巻き込みながら。
実際、このままギロチンのところまで引き込まれて、頭を切断されたところでなんの問題もない。
心臓を貫かれない限りは自己再生の能力で簡単に再生する。
そう思っても、なぜか全く安心することができない。このままではユウジが死んでしまうとすら誤認する。
今まで何の大きな切り札を持っていなかったニホン支部の唯一無二の切り札を失ってしまうんじゃないか、いやそんな難しい事じゃない。
もっとミサキの中の根本にある何か、その何かがユウジに死んでほしくないと望んでいるんだ。
それならば!と、ミサキはユウジのつけている通信機に音声を届ける為にマイクに手をかけ、口を開く

「お願い!戦って!……兄さん!」

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