「先日は任務、ご苦労様。HM-001。体調はどう?」
「好調だ、ありがとう」
翌日、ユウジは地下にあるマクロブ対策機構ニホン支部、兵器開発部門の収容施設にて座っているだけで天井に頭がついてしまうほどの狭い収容室で休息を取っていた。
体を巨大化させる作用のあるマクロブの血漿は完全に血中濃度が薄まった事により元の大きさに戻ったが、それでも18m近くある。
「それは良かったわ、この前の戦闘データの記録だけれど…」
ミサキが戦闘時間やバイタルの変化、戦いによる犠牲者やコンビナートの損傷率について話している。
自分がこうなってから、ミサキは仕事以外で自分に関わってくる事は完全になくなった。それにずっと自分の識別番号しか呼ばない。
きっとミサキにとっての自分、ユウジ・シノノメは死んだのだ。
自分はもうあのミサキの兄ではない。
あまりユウジにとっては受け入れたくない事実ではあったが、敵であるマクロブの遺伝子を持った自分を家族と認識させる方がミサキにとって酷な事だろう。
「聞いてますか?HM-001」
「ああ、聞いている」
ミサキが咎めるような視線で見つめてくる。そしてユウジが問いに答えると溜息をつき
「それなら構わないですがHM-001、流石に鉄塔丸ごと引き抜いて振り回すのはあまり褒められた事ではありません。街やマクロブの出現地域で被害を出さないようにと言った筈です」
「はい…すみません」
「全く…あなたはいつも…」
ミサキが再び長い話を続ける。それを聴きながらユウジはまだ一ヶ月ほど前の事を思い出す。もう二度と戻ることのできない、一人の妹がいたユウジ・シノノメだった頃のことだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。