「ダメだ、完全に忘れ相手のペースに乗せられてる」
トウヤはパソコンの画面で動揺を顕にするアサヒ・イサを眺める。
「マクロブを利用した兵器?そのような事実はございません」
アサヒは声が上ずるのを抑えながら答える。
その様子から、何かを隠していることなど、察しのいい者ならばすぐに理解出来た。
「ではマクロブ対策機構本部の夏季の視察調査を断った理由は何でしょう?」
「あの調査は春季と冬季のもの以外は任意です。拒否する権利はあります。それに、あの当時は武器の開発中で、兵器開発部門もかなり疲弊していると報告があった為外部の人を入れない方が良いという判断です」
「今まで断った事例は各国どこにもなかったでしょう。それに視察調査に隊員は関わらないときいていますが」
「それについては、兵器開発部門の人の中には、備品に触れられたくないって方もいて」
話はどんどんと別の方へと逸れていく。
このままなら次に聞かれるのは、兵器開発部門ことタジマのスケジュールに何故夏季の視察調査を含めなかったのかだ。
恐らくアサヒではそれに対応できない。
トウヤは冷ややかな視線を画面の向こうのアサヒ・イサへと向ける。
彼女は隠し事をすると、話の根幹を失ってしまう。
そんなラベルを頭の中で貼り付けていた。
結局官僚が話の筋を戻すまで、何も対応しきれなかった。
アサヒにはそんな悔しさがついてまわる。
このままではHM-001の存在が露呈するのも時間の問題だ。
事故や治療目的で人間にマクロブのDNAを繋ぎ合わせたなんて知られたら、国民からの非難は予想できないものとなるだろう。
「くそが!これじゃあ何も守りきれない、どうして敵ばかりなんだ、マクロブを殺しきることが目的じゃないのか!……俺はどうすればいい」
揺れる車の中で、四角い青空に向かってアサヒは問いを投げつけた。
当然のことであるが、それから数日間のメディアは、ニホン支部が何を隠しているかで持ち切りだった。
ナガシノは特に、メディアでの報道やそれによるネットの反応のチェックで持ち切りであった。
今も、トウヤの隣の席では調査が主任務の筈のケイがネットニュースを一つ一つ確認して内容をまとめている。
おそらくこの状態はこの事実を上回る衝撃的な何かが起こらなければ永遠に近い間続くだろうし、いつか事実は露呈するだろう。
それに対するユウジの見解は面白いものだったことをトウヤは思い出す。
「だから、しばらくは討伐の任務は少なくなると思うぜ。この状態よりやべーこととか、シンプソン本部長がショタコンとかくらいしかねーからな」
冗談交じりのトウヤの話に対して、ユウジはうんうんと同意した後
「きっと今を覆すようなことは起こると思う。なんか相手も俺の事重要視してるし、前の会議の時に俺の話してる時にリガードによる妨害が入った。そうなれば今の状況も相手にとって都合が悪い。会議の情報すらどこかから漏れてるんだから、この状態も筒抜けだろうな」
確かに可能性としてはリガードの妨害が偶然では無かったこともありうる。
それに相手も国家を名乗っている以上、会議の妨害など滅多に行わない筈だ。
HM-001、ユウジが殺される可能性を上げたくない、それだけはネーション=ウルティマとニホン支部は一致していると言っても過言ではない。
その程度で協力できる相手ではないのは百も承知だが、なるべく相手の作ったチャンスは有効活用させて貰いたい。
ただ、会議の情報は何処から漏れたのか?それだけは理解できない。
恐らく内通者がマクロブ対策機構のどこかに存在している。
トウヤの頭の中にはある人物が浮かび上がる。
このことをユウジにも話して、彼へ話しに来る人物を図ってもらおう。
トウヤはそう考えると、再びネット掲示板へと目を通した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。