私は、高橋に全てを話した
なぜ「いい子」を演じるのかを
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小学校の時、私は思った事をなんでも言って相手をよく傷つけていた
先生にも口答えをたくさんした
………だって、間違いは正すべきでしょ?
周りが間違った事をしてたから、注意したのに
でも、周りからしたら私は問題児だったみたい
きっと気に食わなかったんだろう
私はどんどん周りから孤立した
友達からは避けられて
先生に意見を言う度に叱られた
……正しいことを言っただけなのに
それでも、私は周りに反抗した
『いくら私の事が気に食わないからって、こんなの間違ってる』
そう言って何度も立ち向かった
でも、ある日
ついに親と私が先生に呼び出された
その時
先生が私のお母さんに
「おたくの娘さんは協調性がなさすぎる
これ以上迷惑をかけないでほしい」
こう言い放った
『………え』
私はショックのあまり、反論できなかった
なんで……なんで?
ただ正しいことを言っただけなのに
周りに迷惑をかけていたの……?
先生の話によると、ここ数日欠席者が急に増えて
それはみんな私と口論になったクラスメートだった
……全部私が言い負かせたんだけど
でも、それが原因で
クラスの数名が不登校になってしまった
原因は『私』だった
私は何人かのクラスメートを不登校にしていたのだ
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帰り際、お母さんが私にこう言った
「結衣はもっといい子だと思ってたんだけどな」
『いい子……』
いい子って、正しい事を言っちゃ駄目なの?
反論しちゃ駄目なの?
『でも、私は何も悪いことをしてないのn』
「これ以上、お母さん我慢できない」
『え……?』
「私だって働きながらずっと女手一つであんたを育ててきたよ
でも、もう限界」
『どういうこと……?』
「あんたみたいな手のかかる子供と暮らすのはもう無理ってこと」
『どういうこと……?
あれ、家ってこの方向じゃないよ?』
お母さんは私より何歩か前をずんずん歩いていた
でも、いつも家に向かう方じゃない
違う場所に行こうとしてるのかな
『お母さん、どこ行くの?』
「児童養護施設行くよ
もうあんたと暮らしたくない」
待って!と叫びながら、お母さんに着いて行ったら
いつの間にか児童養護施設に着いていた
『お母さん?どういうこと!?』
「……ごめんね、私はもうあなたのお母さんなんかじゃない」
『えっ………?』
「さよなら」
『待って……!
お母さんっ!!』
私がどれだけ叫んでも、お母さんは振り返らなかった
それから私は何年か児童養護施設で暮らした
……お母さんに捨てられて分かったことは
みんなに愛されるためには『いい子』でいないといけない
『いい子』になるには、本当の自分を偽らないとだめ
このふたつ
だから私は精一杯『いい子』になった
みんなに愛されるため
新しいお母さんと暮らすために
私が『いい子』を演じてしばらく過ぎた
突然、里親になりたい人が来た
施設の先生は里親に私を進めた
だって、施設で一番『いい子』だったから
私が『いい子』を演じたおかげで引き取ってもらえた
里親になってくれた人は、すごくお金持ちだった
こんなチャンス、滅多にない
もう絶対捨てられたくない
そのためには
これから先もずっと『いい子』でいないと……
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高橋がいきなり私の腕をつかんだ
確かに、あれから初めて人前で本当の自分を出した
そしたら急に
こんな奴に弱いところを見られたようで、悔しくなった
本当の私の方がいい……?
高橋の顔を見たら
なんだか、頼りになりそうで
優しそうで、安心できた
だから……
気がついたらこいつに愚痴を話すのが日課になってしまった
でも
本当の自分が唯一出せたから
こいつと居るのが心から楽しく感じた
こんなの、初めてだった
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。