私の耳にかかる彼の甘い吐息。その熱い息のせいで今にも溶けてしまいそうだ。
涼介は私の耳元に息を吐きかけながら、先程交わしたSEXの余韻を堪能しているようだった。
「やだ、くすぐったいよ」
わざとらしく嘘を付いては、意地悪の意味を込め彼の身体を引き剥がそうと両手で押してやる。まぁもちろん、そんな事で涼介が離れてくれる訳では無いけれど。
「嘘。俺と密着できて嬉しいくせに」
この頃の涼介はいつもこうだ。行為をした後、なぜか彼は毎回のように私と身体を密着させたがるのだ。まるでコアラの子供のように。
「嬉しいのは涼介だけじゃない?」
「なんだよ……強がるなよ」
「別に私はちっとも強がってないわ」
眉を八の字に曲げて涼介は、「そんな事言わないで」と更に私の腰へ自身の腕を回した。
全く、一体どうしたと言うのだろうか。これまで私に散々貶すような言葉を投げかけてきていたというのに、この頃の涼介と言ったら……。
「………ねぇ、ラプンツェルの話、知ってる?」
急に真面目な表情へ入れ替わった涼介が、腰へ腕を回したまま顔だけをこちらに向け問いかけてきた。
ラプンツェル……。表上では塔に逃げ込んだ盗賊の男性と恋に落ちる乙女チックで純粋な話ではある。が、それは子供や世間一般へ向けて後から作られたいわゆる“ニセモノ”に過ぎない。
、、、、、、、、、
だって、本当のラプンツェルは―――。
「……SEXの味を知ったラプンツェルは、魔法使いに隠れて王子を城の中に招き入れ、頻繁にSEXを交わした。結果妊娠して王子を殺されたんじゃなかった?」
いつものように軽く鼻で笑った涼介が、呆れた様子で「そんな生々しい話で覚えてるのか?」と馬鹿にするように目を細めて言った。
とは言え、実際私が昔聞かされた話はそんな感じの内容だったはずだ。私の記憶が正しければ、だけど。
「……って言っても少し違うけどな」
「え――?」
とっさに私は彼の方へ視線を落とした。
相変わらず甘い笑みを浮かべながらこちらを見上げる涼介は、(男の癖に)なぜかとても艶っぽく思える。
「ラプンツェルも王子も、お互いを愛していたんだよ」
「愛、して………?」
思わぬ事実に戸惑う私の頬に、ゆっくり身体を起こした涼介の手が置かれた。彼の手から伝わってくるのは、涼介の確かな温もりだけだった。
「ねぇ、あなた」
「ん、何?」
「やっぱり俺にしない? カレシとか何とか慧とか言う奴じゃなくてさ」
答えを窺うよりも早く、涼介の唇が私の唇を塞いだ。
ああ、もう―――。
そんな甘い言葉を掛けられたら、涼介の事気になっちゃうじゃん。
この瞬間、全てを投げ出して彼の元へ飛び込むという新しい“選択”が私の中に現れた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。