第25話

寂しげな彼
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2018/05/27 11:23
 らしくないムスクのような香りが部屋に充満しており、彼がドアを開けたと共にブワッと私の鼻をつつき、刺激する。

 この香り嫌いじゃないけど、何だかとても嫌な感じがするのよ。
「………嫌いだった?」
「慧さんは嫌いだけど、この香りは好き」
 そんな冗談を交わしながら彼の腕に引かれ家の奥へと案内された。部屋に充満する香りとは真逆な、今にも崩れそうな内壁だ。

 彼のイメージとはまるで違う部屋模様に思わず驚きを隠せなかった。
「ここ、本当に貴方の家?」
「ううん、ここは弟の部屋」
「………それって大丈夫、なの?」
 思わず顔をしかめた私を誤魔化すように慧さんは「大丈夫大丈夫!」とピースサインを示した。


 一体何を根拠に大丈夫などと言い張れるのか不思議で仕方なかった。が、今はそんな事気にしても埒が明かない。

 渋々目の前に置かれた使い古された感じの強いシンプルなデザインのベッドに腰掛け、彼の反応を待つ事にした。



「どうせ俺ら以外、絶対誰も来ないからさ………」
「――へ……ッ」
 私の隣に腰掛けた慧さんが、寂しそうに宙をぼんやりと眺めながらそう呟いた。彼の様子が目に付いた私は、とっさに「どうしたの?」と彼の顔を覗き込んだ。
「あ………ううん、何でもないよ」
 儚く無理矢理笑った彼が、私の背中に指を這わせながら「ごめんね」と声を震わせる。私の首元にかかる吐息が、何やら私を切なくさせるのだ。
「本当にどうしたの? なんか変だよ?」
 私はただただ心配なだけなのに。彼はそんな私の事など気にもしていないようで、私の身体を隠していた服を全て脱ぎ取った。
「俺はただ癒しがほしいだけなの。キミだってそれは同じでしょ?」
「…………」
 確かに私もまた、彼に癒しという名のSEXを求めている。私にとってSEXこそが癒し。

 将来私を求める男性が1人も居なくなった時こそ、私にとっての真実の“死”と言えるだろう。そのくらい私にとってのセックスというのは、何よりも重大でかつ深刻なものだった。
「ヒトはきっと、私のような生き物を“尻軽(ビッチ)”と呼ぶんだろうね」
 私の腹部を彼の指がイヤらしく這い回っていく。早く私のイイトコを責めればいいのに、わざわざそれをしない彼の“焦らし”に思わず秘部がヒクヒクと反応する。
「例えビッチでも、俺にとってのキミは変わらないよ?」
 甘くトロンとした目つきが私の欲望をより熱狂させる。もっと、もっとその目で私を見て。

 もっと私を“その気”にさせてよ―――。

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