裕翔の事だから、きっと予算はそこまで大きくないだろう。そもそもこんな事をするために私を誘った訳では無いのだから。
そんな裕翔が連れてこられたのは、渋谷のとある場所に建つ小さなラブホテル。外観の雰囲気からして彼も察したのだろう。頬が林檎のように真っ赤に染まり上がっていた。
「裕翔……どうしたの?」
「えっ、あ………!」
とっさに「何でもない!」と両手で顔を覆う彼。これまで何度か身体を重ねた事があると言うのに、なぜこうも童貞のようなダサい振る舞いができるのだろうか。逆に不思議で仕方なかった。
戸惑う彼の腕に私の腕を絡めると、餌を求め甘える猫のようなあざと可愛い声で「ねーえ、ダメ?」と上目遣いをした。
「―――ッ、いい……けどさ………」
顔を赤らめながら照れ臭そうに目線を泳がせる彼が、聞こえるか聞こえないか程の小さな声量でそう呟いた。
思わずツッコミを入れようかと考えたものの、彼のカンに障りやっぱりと拒否されてはならない。ありがとう、と目を潤ませながら私の思うがままに彼を中へと誘い入れた。
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雰囲気? センス? そんなの全く気にしない。私が求めるのは、脳を直接抉られるような強い快感を得られる何にも変えられる事の無い至福のSEXだ。
他人はそんな私を“ビッチ”や“尻軽だ”と言って貶してくるのだろう。だが、私はそんな心無い言葉に惑わされる程弱くはないのだ。
「………ねぇ、裕翔」
「ん?」
首を傾げた彼の腰に腕を回し、そのまま引き寄せる。あの2人とは違ったほっそりとした肉付きのないゴツゴツとした身体に指を這わせながら「好き」と呟いた。
「な、なんかあなた変わったね?」
「………そう? 私は前からこんなだったけど」
私はただ“隠していた”だけ。本当の私を。
そんな事にすら気づけないなんて、どこまで彼は愚かなのだろうか。思わず鼻で嘲笑ってしまう。
「………こんな私はキライ?」
「そんな事ない、どんなあなたでも好きだよ」
そう言って優しく私の身体を抱きしめる。違う、私が求めているのはそんな生易しいモノじゃないの。いい加減解ってよ。
「………私の事本当に好きならさ、私をメチャクチャにしてよ」
彼の頬に手を伸ばし、涼介さんのように怪しく口元を緩め微笑んだ。これこそが俗に言う“不敵な笑み”という奴なのだろう。
「他の“男(ヒト)”なんて見れなくなるくらいに……ね?」
目の前の彼が、初めてゴクリと喉を鳴らした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。