俺の元に一通の手紙が届いた。
宛先は不明。何も書かれていない真っ白な封筒のまま自宅のポストに投函されたようだ。
「何だろ、これ」
家に持ち帰り封を開けてみると、中に入っていたのは一通の無地の便箋だった。真っ白な一枚の紙には、殴り書きのような汚らしい文字で一言「嘘に気付け」と書かれていた。
「………嘘?」
静まり返った室内に俺の険しい声だけが響き渡った。顔を顰め、首を傾げる。何の事を指しているのか見当もつかなかった。
宛先の間違いか、ただの悪戯かもしれない。馬鹿らしさを覚えた俺は、手紙を細かく千切りゴミ箱へ棄てた。
ゴミ箱へ放り投げたと同時に、テーブルに置かれていたスマホが俺の好きな音楽を高鳴らせた。
一体誰からだろう。何気なく液晶画面を滑らせながらスマホを耳に当てた。
「……はい」
「おっ、久しぶり〜! 元気だった?」
懐かしさを感じさせる、爽やかな明るい男性の声。最後に彼と話したのはいつだっただろうか?
画面の向こうから聞こえる彼以外の人間の声に、俺は「ああ、またか」とため息を付かざるを得なかった。
「ん、ため息なんてしてどうした? 悩み事?」
「………お前も変わらないなぁ」
昔からそうだった。コイツは自分好みの女の子を捕まえては、すぐに飽きて取っ替えてしまう。中学からの仲ではあるが、彼のそういう所はあまり好きでない。
「で、急に電話なんてして来てどうしたの?」
「んー? ちょっと面白い話をしようと思ってさぁ」
彼の言う“面白い話”と言っても、大抵は俺にとってどうでもいいものばかりだった記憶しかない。ついこの間関係を持った女の子との自慢話だったり、はたまた愚痴だったり。
「今回は期待してよ? 絶対お前も興味あるし!」
「あー………分かったよ、じゃあ家で待ってる」
――結局手紙は誰からのものだったのだろう。
ふとそんな思いが過ぎった俺を察知したかのように電話の向こうの彼が「届いた?」と低いトーンで尋ねてきた。
「なんだ、お前からだったんだ」
「はは、ごめんね〜! 驚かせたくてさ」
適当に謝罪する彼にやれやれと呟きながらも「まぁいいよ」と許してやる事にした。
「さっすが裕翔! やっぱ違うねぇ〜?」
「それはいいとして………。伊野尾、あれはどういう意味なの?」
………液晶画面の向こうから彼の怪しい高笑いが聞こえてきた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!