第14話

天国へ行こう
12,083
2018/05/07 10:37
 冷たい雨が私の身体から体温を奪い取る。雨は嫌いではない。が、同時にこのどんよりとした街の雰囲気は好きではなかった。

 傘なんて持っていない。一緒に入れてくれる人すらどこにもいない。
「…………ッ」
 寒い。どうして私、こんなにも虚しい気持ちでいっぱいなのだろう。チクチクと胸が痛みを伴う。これまで抑えていた欲求が簡単に叶えられ、とても嬉しいはずなのに……とても満足しているはずなのに。


「私、何でこんなに苦しいんだろう」
 もしかしたらまだ足りないのかもしれない。もっともっと、私は私を満たしてくれるSEXを心のどこかで求めているのかもしれない。

 ふと灰色に染まった空を見上げ考える。その昔、ラプンツェルは義理の母親が連れてきた何人もの男達に抱かれた。あの出口のない高い高い塔の上で。


 そんなラプンツェルの真実を知ったのは中学三年の夏。初めて出来た彼氏の腕に抱かれながらそれを聞かされた。
 正直言って衝撃的ではあったが、それ以上に私は、そんな異色でエロティックな話に儚い美しさのようなものを感じた。

 汚い血塗ろな物語を綺麗だと捉えてしまう私は、何て可笑しい人間なのだろう。自分で自分を酷く貶す事が稀にある。

 だが、実際に可笑しいのは私ではない。そう、可笑しいのはこの世界そのものなのだ。誰もがSEXの快感を忘れ、本能や理性を表面下に隠し生きる彼らは、私にとって哀れでしかない。
 だから、ほら――――。
 もっとさらけ出して見なよ。そこの彼も、彼女も………貴方も。


 犯したい者を犯し、ヤりたいだけSEXをし続ければいい。夜の楽園で快楽を意のままにしながら死んでいく。それほどに美しく神聖な物語が何処に存在するだろうか?

 雨に濡れた白いブラウスから黒のレース素材のブラジャーが「私を犯して」と言わんばかりに顔を出す。長時間雨に打たれていた私は、既に髪から足のつま先までグッショリと濡れていた。


「――――誰か、私と一緒に“天国”へ行こう?」
 伊野尾さんでも他の誰でもいい。快楽という名の楽園に連れて行ってほしい。


 ―――私という名の“ラプンツェル”を。

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