第24話

不思議な欲望
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2018/05/25 10:27
 今日の受けるべき授業が全て終わり、カバンを片手に講堂を後にしようとした私の足を慧さんが止めさせた。
「待ってよあなたちゃん。俺の家に泊まるって約束したじゃん?」
「な………」
 正直このまま彼を置いて帰ろうかと思っていたのだが、あいにくその本人に見つかってしまったようで、慧さんは口を尖らせながら私の腕に自身の腕を絡めてきた。
 彼の腕を振り払いながら行く気が無いことを伝えるも、どうにも分かってくれそうになかった。
「………俺じゃ嫌?」
「……………。分かったよ、行けばいいんでしょ?」
 渋々ため息を零しながらそう告げると、彼は子供のように目を輝かせながら「本当!?」と再び私の腕に絡み付いてきた。本当、なぜこの人はこうも懲りないのだろうか?
「はいはい、行くから離してよ」
「えー………」
「行かなくてもいいならこのままでいいけど……」
 意地悪を込めニヤリと微笑む。すると慧さんは、どこか腑に落ちない表情を浮かべながらも渋々腕から離れた。全く、どっちが歳上なのかまるで分からないじゃないか。

 渋々彼に誘われるがまま、慧さんの自宅のある所まで電車に揺られていた。
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 賑わう夜の街を彼と2人でとぼとぼと歩き回る。どうやら次の角を左に曲がれば、ようやく彼の住んでいるオンボロアパートへたどり着くらしい。

 紫やピンク、青や黄色などカラフルな色に照らされる怪しげなネオンが私の不安をくすぐる。きっと慧さんがいなければこんな所、1人では歩けやしない。
「………怖いの?」
 私の心を読み取ったかのように慧さんがこちらを振り返り、ニヤニヤと馬鹿にするような笑みを浮かべ言った。

 思わずムッと頬を膨らませながら「そんなことない」と強がるも、心の中は若干震えていた。


 これから彼の部屋で繰り広げられるであろう生々しい夜のSEX。ついこの間裕翔と久々に身体を重ねたせいだろうか。“他の誰か”と触れ合うのに少し抵抗があった。
「………俺の前では正直でいてよ」

 私の性欲とは違う“何か”がトントンとドアをノックするかのような、不思議な気持ちに駆られた私は、自分でも気付かぬうちに彼の腰へと腕を回していた。
「…………素直な方が可愛いよ、あなた……ッ」
 初めて彼から“あなた”と呼び捨てで呼ばれたような気がして、胸が強く熱く締め付けられる。ハッと我に返るも、何故か腰に回す手を解こうとは思えなかった。


 それどころか、もっと――――。



「もっともっと、貴方に触れていたいの」
 私の腕を自身の身体から引き剥がした慧さんは、そのまま腕を引きながら足早に自身の自宅へと足を進めた。

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