今日は裕翔と久しぶりのデートの日。彼の前ではいつもガーリーな女の子らしい服装をしてそれに相応しい振る舞いをしているつもりだ。
「今日も可愛いねあなた」
「ん………ありがとう」
伊野尾さんと涼介さんの2人を知ってからと言うものの、私の頭の中にはもう彼らしか存在していなかった。
もはや眼中にすら無い裕翔となぜ付き合っているのかも、私は既に分からなくなっていた。
「………何かあった?」
「へ……ッ、何で?」
「いや………元気ないからさ」
なぜどうでもいい所で鋭いのだろうか。微量の苛立ちが彼の事をますます嫌いにさせる。
ここは喜ぶべきなのか、余計なお世話だと怒るべきなのか分からないけれど。とりあえず表面上では嬉しそうに口角を上げておく事にした。
「もしかして………気にかけてくれたの?」
「え、当たり前じゃん! 俺彼氏だよ?」
そうだったね、とわざとらしくクスクス笑う私の肩を叩きながら裕翔が「やめてよもー……」と苦笑い。“冗談混じり”と思っているのだろうけど、本当はその逆よ。
私は“本気で”忘れていたのだから―――。
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眠気を誘うような甘ったるいだけの純愛映画を大スクリーンで2時間もの間見せられ、その後コーヒーを飲みたいと言う彼の要求を飲み近くのスターバックスへ。
そしてその後軽くお昼を済ませた私達は、店内でこの後の事を悩み考えていた。
「あなたはどこか行きたい所はある?」
私にその質問を投げかけるのはさぞかし愚問ではないか? と多少の苛立ちを抱えながらも精一杯の笑顔で「どこでもいいの?」と聞き返した。
「あなたが行きたい所ならどこでもいいよ」
「本当ッ!? じゃあ―――」
私の口元が怪しいくらいに緩んでいるのがよく分かった気がした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。