アリスは聞き返した。
そう言うと、コウは遠くの方にある薔薇の垣根を指さした。
そこには一体のトランプ兵。
アリスの困惑をよそに、コウは1メートルほどある剣を渡した。
ちょっと嫌だけど………
でもまあ、夢だし………
と、アリスは口にして、コウから剣を受け取った。
そして、アリスは小走りでトランプ兵の方へ駆け寄った。
アリスはトランプ兵を見て驚愕した。
私がいつの日か見た夢と、全く姿が違う…
虚ろな目。
おぼつかない足取り。
まるで生きる事を諦めたような姿。
ごめんなさい。
グシャ
アリスはトランプ兵を殺した。
トランプ兵が悲鳴を上げながら、倒れる。
トランプ兵が持っていた槍で、アリスの脚を傷つける。
トランプ兵が生温かい血で、アリスの身体を汚していく。
アリスの脚からは、痛みとともにじんわりと血が滲む。
それは紛れもなく、夢で感じられるものではなかった。
これは、現実だ_____________
アリスは息が切れていた。
疲れたからではない。
自分が人を殺してしまったこと。
そして、アリスがトランプ兵を殺した事実は夢の中での
できごとではないこと。
それがアリスを不安にさせた。
よっこらせ、とコウは分厚い本をどこからか取り出した。
アリスはそれを受け取った。
表紙には『Alice in Wonderland』と書かれている。
パラパラとページをめくると、さっきアリスが殺した
トランプ兵が描かれていた。
そう言うと、コウはフッと消えた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!