第14話

Seoul
47
2021/09/29 01:30



俺は父のことをよく知らない。


物心ついた頃には父はおらず、母と姉とともに過ごしてきた。




小さい頃、母の部屋でアルバムを見つけた。

大泣きしている赤ん坊の俺と、俺を必死であやしている父の写真。


写真の中の父の優しそうな表情を見て、いつしか俺は、父に会ってみたいと思うようになった。


母や姉に相談せず、父のご友人や職場の人に話を聞いてまわると、ある不可解な噂を耳にする。



「邪神が地球を支配する。そうなったら、地球は終わりだ。」



そのような奇妙なことを、父は仲の良い仕事仲間のおじさんに話していたそうだ。

その後間もなくして父は会社を辞めて、家からも姿を消した。


それは、俺が3歳のころだった。







俺が成長すると、一人部屋で父の部屋を使うことになった。

父が残した物を全て母の部屋に移すことになり、大掃除をしていた時。



机の引き出しから、ボロボロの手帳を見つけた。


その手帳の表紙には、宇宙の様な空間に、大きなカエルのような怪物が描かれていた。




ー 邪神が地球を支配する。




父が言ったというその言葉が、俺は頭から離れなかった。


気付けば中等校のその時から、宇宙探索隊になりたいと思い、高等校に進学して、試験に合格する。



ヒョジン
ヒョジン
スンジュン…?スンジュンだよな??
J-US
J-US
え…ヒョジン!?
お前も宇宙探索隊志望なのか!?


幼馴染で、中校は別々だったスンジュンも、宇宙探索試験に合格して同じ高校に進学したと知り、共に宇宙探索隊になれるよう、必死で勉強した。




そこで俺は、父にそっくりの宇宙探索部の教授に出会う。

自分がまだ小さい頃の写真で見た父と同じ。

とても優しい教授。



違う。教授が父なはずがない。他人の空似だ。


俺はそう自分に言い聞かせていた。




そんな高等校1年目の冬。


ヒョジン
ヒョジン
失礼しまーす。教授、いないのか…。


勉強でわからないところがあったため、教授の研究室を訪れる。


しかし、珍しく研究室の鍵が開けっ放しなのに、教授がいない。


ヒョジン
ヒョジン
また後で来るか…ん?


たまたま見た、教授の机。

その机の上に積まれた書類の山の、一番下にある紙に、チラリと見えるソレ。


書類を持ち上げて見ると、その絵は、父の机の引き出しから見つけた、ボロボロの手帳の表紙と同じ、宇宙空間にカエルの怪物が描かれていた。


ヒョジン
ヒョジン
これ…なんで…。


ガチャ。


ヒョジン
ヒョジン
…!


ドアノブが回る音がして、すかさず机から離れる。



教授
おっ…と。なんだヒョジンか。驚いたな。
ヒョジン
ヒョジン
すみません…。無断で入ってしまって。
教授
いやいや、鍵を開けたまま出ていた私が悪い。
で、何か用かな?
ヒョジン
ヒョジン
あ、えっと…。






他の日にも





教授
お疲れ様。ドリンク買ってきたぞ。
J-US
J-US
さすが教授〜!
ヒョジン
ヒョジン
やったぁ〜!ありがとうございます!!


ビニール袋をガサガサと漁るスンジュン。

その手が止まる。


J-US
J-US
これ懐かしい!誰が飲むんですか??


それは、俺が幼少期から密かに好きな、キャラクターの絵が描かれたボトルのドリンクだった。

味は美味しいのだが、子供向けのパッケージが恥ずかしいため、これを人前で飲むことは無い。のだが…。


教授
あれ?ヒョジンはこれが好きで飲むんじゃなかったっけ?


俺は、誰かにこのドリンクが好きなことを言ったことはない。このドリンクが好きなことを誰も知らないはず。


そう。家族以外は。



ヒョジン
ヒョジン
え…俺は…。
J-US
J-US
ぷぷ。確かにヒョジンには似合うな。
ヒョジン
ヒョジン
…。
J-US
J-US
あ、ごめんごめん。いや、でもこれ美味いよな。懐かしい。俺飲もうかな〜。






また別の日。




教授
今日の発表、とても良かった。
みんなお疲れ様。

学術発表会が終わり、みんなで帰宅途中。


教授
ヒョジンとスンジュンだけ反対方向だから、私も北回りで帰るよ。じゃあ、みんなお疲れ様。気をつけて帰るように。


はーい。

おつかれさまでーす。



俺とスンジュンと教授以外の部員は、みな背を向けて俺らとは反対方向の駅に向かう。


教授
じゃあ、私たちはタクシーで帰ろう。
みんなには秘密だ。

スンジュンも俺もみんなも、教授のこういうところが好きなのだ。

スンジュンと自然と目線が合って、二人してやったぁ!と声をあげて喜ぶ。


ここからだと、スンジュンの家が近く、もう少し進むと俺の家だ。

ヒョジン
ヒョジン
えっと、
教授
◯◯までお願いします。


俺の家の前にあるビルの名前を、運転手に伝える。


普通、生徒の住所ってそこまで覚えてるものか…?


教授
スンジュンの家は、ヒョジンの家よりここから近いよね?
J-US
J-US
そうです!知ってるんですか?


教授は、一瞬止まって、それから笑顔になって

教授
あぁ…名簿で見たのかな?


はぐらかしているのか。




教授は、俺のことをよく知っている。









ヒョジン
ヒョジン
前からおかしいと思ってた…。
まさか、本当に…。



スンジュンと共に、無言で山の頂点の建物を目指す。


そして、1時間ほど歩いてやっと到着した不気味な建物。


その扉の前に、壁に寄りかかりだらりと座っている白衣の人物。





項垂れる頭を上げて見ると、その人物は、第一部隊の監督として火星に飛び立ったはずの、教授。





いや、父さん。





そのポケットから出てきた俺を含めた家族の写真が入ったペンダント


そして、あのボロボロの手帳の表紙と同じ


俺が研究室で見た、あの絵が描かれた紙。





宇宙空間で見た、俺たちの宇宙船を襲った、あのカエルの様な巨大な怪物。


この絵の怪物は、あの怪物にそっくりだ。


J-US
J-US
ヒョジン…いなくなったお父さんって…。

スンジュンにま、もう気付かれてしまった。

ヒョジン
ヒョジン
あぁ、教授は、俺の父さんだ…。

スンジュンの息を呑む呼吸音が聞こえた。


J-US
J-US
教授…起きてください…何があったんですか!教授!!


父は、起きない。


J-US
J-US
…。
ヒョジン
ヒョジン
…。


第一部隊に、何があったというのか。


父さんは、外傷がない。

こんな無傷で、どうして亡くなったのか?


この建物は何だ??


あの怪物は?この絵と関係があるのか?



ヒョジン
ヒョジン
みんなに、何があったって言うんだ…。チャンユンたちは…どこに行ったんだ…俺たちは今、どこにいるんだ…どうやって帰れば良い…。
ヒョジン
ヒョジン
どうすれば良いって言うんだよ!!


自分の怒声が森の中を木霊する。

J-US
J-US
気をしっかり持て!大丈夫。帰れるさ。
J-US
J-US
俺が、いるから。


スンジュンが、俺が落ち着く様に背中をさすってくれたため、なんとか平常心を取り戻す。

ヒョジン
ヒョジン
ごめん。こんなことしてても、何も始まらないよな。とりあえず、この建物、入るか?
J-US
J-US
…俺も言おうと思ってた。行こう。



俺たちは、この不気味な建物に、足を踏み入れた。











どの部屋に入れば良いのかわからないが、片っ端から部屋を開ける。しかしほとんどが鍵がかかっているようで、中に入れない。

開けられる部屋はどれも、壁紙も床も真っ黒な無機質な部屋で、何も無い。

とにかく、何の手がかりも無い。


そうやって進んでいると、廊下の先に、大きな両開きのドアが見える。

いかにも何かありそうだ。


J-US
J-US
入るか?
ヒョジン
ヒョジン
…あぁ。


そこに入ると、教会の様な造り、しかし部屋全面が真っ黒で、教壇の両サイドに悪魔のような銅像が並ぶ、協会とはかけ離れた見た目の部屋だった。


その中央に、全身真っ白な人影が、背を向けて教壇に向かい跪いている。


神々しい光を放つその人物は、ゆっくりこちらを振り返る。


腰まである長いサラサラの髪が、ふわりと揺らぐ。


???
お待ちしておりました。


透き通る様な真っ白な肌、真っ白な髪、真っ白なまつ毛、茶色のふんわりした眉毛に、唇がピンク色。


天使、いや、女神様か。



その怖いくらいに美しい女性は、跪いた体勢から立ち上がると、身長が190cmはありそうなくらい高身長だ。



J-US
J-US
…。
ヒョジン
ヒョジン
…。


見とれていると、また鈴の音色のような美しい声で、話し出す。




???
わたくし、ダルタウスと申します。光を司る神です。悪さをして下界に逃げた不届き者を、連れて帰るために来ました。ですが、私は下界には長くとどまることが出来ませんので、下界の生命と契約を交わし、私の魔力を受けてくれる器となる、体を貸して貰わなければなりません。
ダルタウス
その契約を、下界にいる優しき人の子と交わしたのですが、私が探している者の魔力に拒まれ、予期せぬことにこちらで目覚めてしまったのです。早く契約者様に会わないと、私はまた天界に戻らなければならなくなってしまいます。
ダルタウス
お願いです。悪さをした…ルキを探すために、私の契約者様を一緒に探してはくれませんか?


なんかもう、何の話ししてるのかよくわからない。

つまり、このダルタウスと名乗った女神様と、3人で契約者を探せと??

この星から出れもしないのに??

J-US
J-US
俺たちも、何人もいるんだけど…とりあえず、まず4人、探しているんです。
ヒョジン
ヒョジン
そうなんです。さっき、大きなカエルみたいな怪物に宇宙船を破壊されて、みんなバラバラになってしまったんです。


説明すると、ダルタウス様はピクリと眉を上げる。


ダルタウス
そうですか…。それは、オグルトゥスです。
やはり召喚されてしまったのですね…。
ヒョジン
ヒョジン
オグルトゥス?
ダルタウス
カエルの様な怪物です。皆様、よく生きてらっしゃいました。相当精神も削られたことでしょう。
ダルタウス
待ってくださいね。今、癒しを授けます。


ダルタウスがスンジュンの頭上に手のひらをかざすと、スンジュンは自然に目を閉じる。


じわじわと彼の体を光が包み込み、それが消えた頃には、かすり傷や服の破れやスレなども綺麗に無くなっていた。


J-US
J-US
うわ…体が軽い…。
ダルタウス
あなたも…。

ダルタウス様の手が、頭上にかざされる。

実を言うと、一連の騒動でかなり疲れており、身体中が痛んで、眠気もある。

しかし、ダルタウス様の能力によって、一瞬目を閉じただけで、疲れも痛みも眠気も吹き飛び、何よりも不安や恐怖の感情も薄れていく。


スンジュンは先程とは打って変わり、疲れた表情が抜けている。きっと俺も同じであろう。



ダルタウス
お願い致します。契約者様を、わたくしと一緒に探してください。


女神様に言われて、断る人間がいるのか。


J-US
J-US
もちろんです!
ヒョジン
ヒョジン
もちろんです!


ダルタウス様が、微笑む。


ダルタウス
まぁ、ありがとうございます。

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