第17話

Seoul
51
2021/10/16 00:01

ゲームだったら、いかにもボスが待ち受けていそう。

そんな見た目をした、何もないこの土地の中心に聳え立つ高い高い山と、その辺りを飛び交うコウモリの大群。


J-US
J-US
ヒョジン。あれ、いかにもって感じだよな。
ヒョジン
ヒョジン
あぁ。絶対何かある。

不安を感じつつ、教授から全員助かると予言を聞いているため、意を決して山頂を目指し、山に足を踏み入れる。

草木はやはり無く、険しい斜面の道なき道が続く。



J-US
J-US
一旦休もう。
ヒョジン
ヒョジン
あぁ、ごめん…。

幼少期に怪我をしたヒョジンの左足が悲鳴をあげる。

歩くことができず、一旦休憩することにした。


ヒョジン
ヒョジン
ごめん、あと3分…3分あれば立てるから。
J-US
J-US
良いよ。無理すんな。

と言っても、俺ももう限界だ。さっきの星でも山を登り、下り、また山を登る。

しかも今回はかなり急斜面が続く。

俺もヒョジンも参っている。


いつものノリで、ヒョジンに話しかける。


J-US
J-US
やっぱ5分にしない?
ヒョジン
ヒョジン
やっぱ5分にしない?
J-US
J-US
ヒョジン
ヒョジン


やはり、幼少期から知った関係だ。

同時に同じ言葉が出る。


J-US
J-US
おい〜、みんな大変な時に3分で足らず、5分休むとか…。
ヒョジン
ヒョジン
お前も言っただろが!!ㅋㅋ
こうしてヒョジンと話すだけで、気が楽になる。

ヒョジン
ヒョジン
あのさぁ。
J-US
J-US
ん?何?


ヒョジンが、真面目な顔をして言う。

ヒョジン
ヒョジン
他の第一部隊は見つけて、あとはヒョンの安否確認ができれば、今回の俺たちの任務は完遂になる。俺も父を見つけたから。でも、お前はそれだけで終わらないよな?
ヒョジン
ヒョジン
もし、俺に何かあっても、必ずヒョンを探し出せよ。
J-US
J-US
…いや、何だよ急にㅋㅋ頭打ったのか?ㅋㅋ
ヒョジン
ヒョジン
ちげーよ、パボっ!

ケラケラ笑う俺に、ヒョジンは胸の内を明かす。

ヒョジン
ヒョジン
なんか、やな予感がするんだよ。だから、何かあれば、俺を置いて行け。いいな?

何とも悲しいことを言う。

ヒョジン
ヒョジン
聞いてんだろ?
J-US
J-US
…わかった。
ヒョジン
ヒョジン
俺らはリーダーだから。あいつらのためにも、どちらかは必ず戻らないと。
ヒョジン
ヒョジン
例え一人が、欠けても…。







もう、山頂が近い。

俺らと同じくらいデカいコウモリは、よく見ると人型で、まるで悪魔のような姿をしている。


見つからないように少しずつ斜面を上がる。

ヒョジン
ヒョジン
もう少しだ…やっとだ…。
J-US
J-US
ちょっとずつ行かないと、バレるな…。


斜面を上がって、絶望する。


何と、山頂を目前にして、壁が目の前に立ちはだかる。

この崖を登らないと、上には行けない。


俺とヒョジンの荒い呼吸が、交互に耳に聞こえる。


ヒョジン
ヒョジン
マジかよ…。
J-US
J-US
…。

道具も無い中、散々険しい登山を体験して、最後にこれである。

もう疲れ切っている俺たちは、崖を目の前にして立ち止まってしまう。


J-US
J-US
ここまで来ちまったから行くしかねぇけど、ヒョンは本当にここに来てんのか?俺、これでヒョンを見つけられなかったら…心折れるんだけど…。

ついつい弱音が出る。

ヒョジン
ヒョジン
考えんな。ここを登れば、辺りも一望できるし、何か手がかりが掴めるはずだ。登るぞ。
J-US
J-US
道具無しで、どうやって…。

ヒョジンは、武器をしまっている腰のポーチから、特殊な形の小型ナイフを取り出す。


ヒョジン
ヒョジン
これ、一応登攀用ナイフ。これしか無い。

丈夫な果物ナイフ、という見た目。

これで本当に、登れるのだろうか。


しかし、もう後が無いため、やるしかない。


J-US
J-US
ありがとう…じゃあ、登るか…。

通常、登山の際は崖を登る時は補助役や、命綱などで登る者を括るが、今は二人だし道具も無い。

山頂が近づくほど、落ちた時の膨大な落下ダメージは避けられない。


最悪を想定してしまい、震え出す身体に鞭打って、崖の出っ張りに手をかけ、登る。

落ちた時の補助としてヒョジンが下で待機していたが、俺がある程度登れているのを確認し、ヒョジンも登ってくる。



これは…時間をかけないと登れそうにないと思う。


汗で目が開けられない。
それを拭うために片手を離すことも出来ない。


ヒョジン
ヒョジン
スンジュン!右手をそっちの出っ張りに掛けろ!その体制だと落ちるぞ!!

二手ほど前に良くない場所に手をかけてしまい、次に手をかける場所が見つからない。

右往左往する右手。片手で支える左腕がもう限界だ。力がだんだん抜けていく。

ヒョジンの声かけに返事もできない。

ヒョジン
ヒョジン
スンジュン!大丈夫か!?


さっき、置いてけって言ったのに。

ヒョジンは、肩車するように、俺の股の間に入ってくる。

J-US
J-US
ちょっ、、なに、、!
ヒョジン
ヒョジン
早くしろバカ!お前の体重支えてやるから、今のうちに手かける場所探せ!!

くそ!ほんと情けねぇ俺…。

俺は両手の位置を変え、窮屈でない場所を発見する。

J-US
J-US
すまん!ありがとう!
ヒョジン
ヒョジン
頑張れ!あとちょっとだぞ!!

途端に力が湧いてくる。

いける!絶対登れる!!




そう思っていると、最悪なモノが目に入る。


飛び交う悪魔たちが、俺たちに近付いて来るではないか。


J-US
J-US
嘘だろ…。


悪魔の一匹が、より山頂に近い俺に攻撃を仕掛けてくる。


長い爪で背中を引っ掻かれ、服の破れる音がして、激痛が走る。


J-US
J-US
ぐっ、、!!
ヒョジン
ヒョジン
スンジュン!!

思わず顔をそちらに向けてしまう。


なんと4体の悪魔が、俺たちを取り囲んでいた。



今度こそ終わった。

そう思った時、



ヒョジンが崖を蹴り、俺に攻撃してきた1体に飛び乗る。

思わぬ空中戦となり、悪魔たちも戸惑うようにその周りを飛び回る。


ヒョジン
ヒョジン
スンジュン!登れ!!

足が動かなくなる。

黙ってヒョジンを見つめる。


ヒョジン
ヒョジン
早く行け!!
ヒョジンが悪魔の目にナイフを突き立てる。


悪魔は暴れ、急降下して落ちていく。

それを追うように他の3体も、崖の下目掛けて落ちていく。

ヒョジンが落ちる瞬間が、走馬灯のようにスローになって見える。



また


チャンユンとユトが宇宙船から落ちて行った時も


ジェヨンとミンギュンの乗る宇宙船の半分が墜落した時も




俺は、誰の手も掴めない。



どうして、こんな俺が残るんだ。

俺に何ができるっていうんだ。









ヒョジン
ヒョジン
なぁ、スンジュン。
J-US
J-US
ん?何?


ネオンが煌めく繁華街から、少し外れた場所にある公園。


そこのベンチに座りながら、高く煌めく商業施設のビルを見上げる。



ヒョジン
ヒョジン
俺、早く宇宙に行きたい。地球はすっかり環境が悪くなって、いずれは人間が住めなくなるって言われてるけど
ヒョジン
ヒョジン
俺、宇宙から見たら、絶対地球は綺麗だと思うんだ。だから、その写真を撮って、この綺麗な地球を守ろうって、世界中に投げかけるんだ。
ヒョジン
ヒョジン
本当は、火星にも行きたくない。俺は、いつまでもこの地球で、大切な人たちと生きていたい。


ヒョジンに、父親はいない。


物心ついた時には、もう親父さんはいなかった。


いつも、お袋さんとヌナと一緒。



俺が父さんと公園でサッカーしてるのを見て、羨ましそうに見つめる男の子。

俺がサッカーに誘うと、嬉しそうに、父さんと俺と3人で遊んだ。

それがヒョジンだった。



家族思いのヒョジン。

俺の両親も、まるで本当の家族のように、ヒョジンの家族と仲が良かった。



もし、地球の資源が枯渇して、このまま地球に住めなくなったら。

偉い政治家と、火星の環境を管理するための宇宙探索部隊だけが、火星に先に移住できることになっている。


家族思いのヒョジンは、例え仕事でも、お袋さんとヌナを置いて火星には行けないと言っており、その同意書に署名していない。



ヒョジンが望むなら、俺も、地球を捨てたくない。

火星には、行きたくない。

この地球を、守りたい。


J-US
J-US
俺も、宇宙に行ったら、より地球の美しさがわかると思う。
J-US
J-US
俺らで、地球を守ろう。


ヒョジンと、肩を組み合う。


ヒョジン
ヒョジン
宇宙って、どんだけ綺麗なんだろうな。
J-US
J-US
不思議だよな、こうやって見上げてる空も宇宙なのに。ここから見る宇宙と、宇宙から見る宇宙って、やっぱり違うんだよな?
J-US
J-US
行ってみたいなぁ…そこから見る地球って、どんななんだろう…。


ヒョジンと語り合った、学生時代の夏のあの日。


ヒョジン
ヒョジン
なぁ、絶対試験、受かろうな。二人で。
J-US
J-US
当たり前だろ!約束な!!

肩を組みながら見上げたビルは、ネオンが反射して、まるで宇宙のように煌めいていた。







J-US
J-US
ヒョジン!!


この高さから落ちたら


ヒョジンは






J-US
J-US
くそ!くそ…!!

悔しい。

俺だけになったら。

チャンユンもジェヨンもミンギュンもユトも

みんないなくなったら

俺だけで報告しに地球に帰ったとして

俺はどうやって生きていけばいいんだ


ヒョジン


お前に何かあったら、俺が見殺しにしたも同然だ


ごめん



ごめん







泣きそうになりながら、最後の力を振り絞り、崖を登り切る。



そこで、俺は、見覚えのある人物を見つける。


J-US
J-US
ヒョン…。



床に赤いペンキのような物で、奇妙な魔法陣が描かれている。


そこに座り込んでいるのは、俺のヒョン。その人だった。


J-US
J-US
ヒョン、ヒョン…!!


駆け寄ると、ヒョンはいつも大切にしていた仕事用の手帳を手に握りしめていた。


それを開けて読むと、火星に辿り着くまでにカエルの怪物・オーグダウスに宇宙船が襲われて、隊員全員がバラバラになったこと。

その逃げる途中、教授が予備船で囮となり、巨大なムカデの怪物と星に落ちたこと。

自分と3人の隊員のみが火星に辿り着いたが、宇宙船が火星に入る時の重力に耐えられず船体が弾け飛び、自分だけが火星に降り立ったこと。


そして、教授から預かっていたボロボロの手帳から、カエルの怪物を封印する呪文が英語で書かれているページを見つけ、にわかに信じがたいと思いつつ、すがるようにその儀式通りに魔法陣を描いたこと。自分の体力が残っておらず、儀式が失敗に終わったこと。



「もう一度最後に、家族に会いたかった」

「不甲斐ない結果に終わったしまい、みんなにも世間にも申し訳ないと思う。」


「可愛い弟スンジュン。どうかお前は俺たちを探しに来ないでほしい。火星は危険だ。」

「幸せでいてくれ。それが俺の願いだ。」






J-US
J-US
ヒョン…


日記は、2週間分続いていた。

ヒョンが使っていたリュックの中から、空になった缶詰が見つかる。


ヒョンは、一人で2週間、日記をつけながらここで過ごしていたのだ。

英語の呪文を読み解こうと、書物を読み続けた。


この宇宙のために、地球のために。


人類で初めての、火星到達者として。


J-US
J-US
ヒョン、凄いよ…。こんなこと、簡単にできることじゃないよ…。
J-US
J-US
ヒョンが、人類初の火星到達者だったんだ…ここに辿り着くために、どれだけの人々が、夢を見ていたと思う?
J-US
J-US
ヒョンが一番目、俺とヒョジンが二番目だ。
やっぱり俺は、ヒョンには敵わないな…。


涙が溢れ出る。


やがて、辺りが明るくなる。


魔法陣が光出し、座っているヒョンの手に握られている何かにその光が反射している。


俺がその手を広げると、鍵が握られていた。





すると、魔法陣の光が鍵に反射して、その光が線になって四方に延びた。

J-US
J-US
何だ…?

合計、8本の光の線。


1本は、俺の心臓に延びている。




そして、6本は空へ、1本は先程登ってきた崖の下へ。



俺に延びる光の線は強く輝き、他の7本は今にも消えそうだ。


J-US
J-US
まさか…。

みんなが、危ない。



そう思い立ち上がると、上空にあの悪魔たちがどこからともなく現れる。


俺は、ライフルを構える。


J-US
J-US
俺が、地球も、みんなも救う。
J-US
J-US
俺の仲間に、手出しさせない。

引き金に、指をかける。

J-US
J-US
ヒョジンを、返せ

引き金を引いた。













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