ここはどこだろう。
目が覚めると辺りが1面真っ暗闇に包まれていた。
どこを見ても真っ暗闇。
唯一見えるのは淡く光る自分の体。
...これは夢なのか?
誰かに名前を呼ばれて振り向くとそこにはあなたがいた。
控えめに笑う目の前のあなたは、俺の記憶の中の姿とちっとも変わらなかった。
制服に身を包んだあなたは手を伸ばし俺の手を掴む。
いつの間にか俺も制服を着ていた。
いつもなら満面の笑みで笑いかけてくれるはずのあなたは今はそんなに笑っていなくて。
少し口角を上げるだけの笑顔。
なんだか少し、怖かった。
あなたはこっちを見ずに言った。
病院.........
どこの......?
もしもあそこだったら......
あなたに会えた喜びよりも恐怖の方が勝って顔が強ばる。
その恐怖を紛らわすかのように俺はあなたに話しかけた。
俺の疑問には答えずぐんぐんと歩き続けるあなた。
あなたに手を掴まれてるため当然、俺も歩き続ける。
突然、病院が現れた。
○○病院。
今あなたが入院している病院。
あなたがくるりとこちらを振り返る。
振り返ったあなたは笑っていなかった。
漫画のキャラがハイライトを抜かれたかのような虚ろな目をしてこちらを見つめてくる。
自然と声が震える。
あなたは瞬きを1回すると、俺の手を強く引いて歩き出す。
あまりの強さに体がよろめく。
あなた、こんなに力、つよかったっけ...?
あなたは中には入らず庭に向かって歩を進めている。
いやだ。
そこには行きたくない。
嫌だ嫌だ嫌だ。
抵抗虚しく庭に着いてしまう。
一面には緑の草。
しかし、1部だけ違うところがある。
赤い、しみ。
どんっ
いつの間にか後ろに回っていたあなたに突き飛ばされる。
どさっ
倒れ込んだ俺の目の前にはさっきの赤いしみ。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
思考が上手くまとまらない。
俺はこの赤いしみを知っている。
忘れたくても、忘れられないしみ。
あの日のことが一気に思い出される。
立ち上がる気力も上手く言葉を紡ぐ気力さえなくておれは倒れ込んだままうめき声を上げる。
声がして上を見上げた俺が見たのは
上から落ちてくる大量の鉄骨と、
あなたの、
満面の笑みだった。
**
思い切り起き上がった俺は周りを見渡す。
いつもの俺の部屋。
どんな夢だったのか思い出そうとするが、靄がかかったかのように思い出すことが出来ない。
ただ、嫌な夢を見たのだということだけは
ぐっちょりと濡れたシャツが教えてくれていた。
**
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!