第21話

🍏勝手な口
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2021/04/14 11:00
お互いに何も話さないまま事務所に入っていく。
俺たち以外誰もいない空間に、エレベーターの到着音だけがやけに響いた。

すると、横から小さな声で話しかけられる。
you
昨日はごめんなさいっ…その、叩いてしまって。
小さい彼女が頭を下げるともっと小さく見えた。

俺はこの子にこんなことをしてもらう立場にない。
Th
や…あれは俺が悪かったと思うから。
you
もうあの件はお互い様ということで、忘れるのはどうですか…?
エレベーターの明るい電気の下で、顔を上げた彼女が眉を下げながら微笑んだ。
精一杯の笑顔のつもりだろうか。
それでもいい。多少無理していたとしても…
Th
そうやって、笑ってて欲しい
you
…え?
気付いたら、口から出ていた言葉。
自分でも何故そんなことを口走ったかわからないでいた。

戸惑う彼女に「なんでもない」と告げてエレベーターを降りていく。

後から小走りでついてくる彼女に気付いて、少し歩幅を緩めた。
you
あの…今日のステージお疲れ様でした。みなさん素敵でした。
"みなさん"
と言われたのに、何故か自分に言われたみたいで胸が踊った。
嬉しくて、心が解けて…また俺の口が勝手に動き出す。
Th
俺のことも見てた?
you
えっ…?
ゆっくり立ち止まって視線を斜め下に移すと、何故か頬をピンク色に染めた彼女がいた。

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