お互いに何も話さないまま事務所に入っていく。
俺たち以外誰もいない空間に、エレベーターの到着音だけがやけに響いた。
すると、横から小さな声で話しかけられる。
小さい彼女が頭を下げるともっと小さく見えた。
俺はこの子にこんなことをしてもらう立場にない。
エレベーターの明るい電気の下で、顔を上げた彼女が眉を下げながら微笑んだ。
精一杯の笑顔のつもりだろうか。
それでもいい。多少無理していたとしても…
気付いたら、口から出ていた言葉。
自分でも何故そんなことを口走ったかわからないでいた。
戸惑う彼女に「なんでもない」と告げてエレベーターを降りていく。
後から小走りでついてくる彼女に気付いて、少し歩幅を緩めた。
"みなさん"
と言われたのに、何故か自分に言われたみたいで胸が踊った。
嬉しくて、心が解けて…また俺の口が勝手に動き出す。
ゆっくり立ち止まって視線を斜め下に移すと、何故か頬をピンク色に染めた彼女がいた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。