この汗を流す瞬間が気持ちいい。

嫌なことも、努力の証も、べたついた感情も、俺にいらないものは全て流してくれるように思えるから。

無駄なことはせずすぐにシャワールームを出ると、歩きながらスマホを手に取った。

適当に相手を選んで連絡を取る。

今日は疲れてるから誰でもいい。

誰でもいいけどこの溜まってる物だけ吐き出したい。

タオルで髪を乾かしながら練習室に戻り、荷物をまとめた。

その場にいたメンバーにだけ挨拶をして、すぐに練習室を出る。

車に乗る直前、スマホを見るとさっき連絡した何人かから返事がきていた。

どこに向かうか確認しようとしたけど、今日に限って誰も捕まらない。

車に乗り込み家に送ってもらうよう頼む。

イラついて窓をカツカツと爪で叩いていると、バックミラー越しに新しいマネージャーが怯えながらこちらの様子を伺っている視線をチラチラと感じた。

さすがにこの人は悪くないし…
後々悪い噂流されても面倒。

次に目が合った時、ニコッと笑って俺は苛つきをなかったことにした。



部屋のベッドに寝転び、ゆっくり目を閉じる。
最近調子が悪い気がする。
何もかも辞めてしまいたい、投げ出してしまいたい

そんな感情はとうの昔に置いてきた筈なんだけど

まだ俺の中で何かが燻っている。


負の感情は通り越して、今はもう無に近い。
ステージ上の自分、ファンの前にいる自分、歌っている時、踊っている時の自分。

メンバーといる時の自分、一人でいる時の自分、女の子を抱いている自分、自分を見つめている自分。

自分という存在を誰も近付かない場所に閉じ込めて、俺だけの世界を守っている。

もうそこには誰も入ってこれないように。

悲しいとか辛いとか
嬉しいとか幸せとか

そんなのは外の自分で十分だ。
内の自分はもう、誰にも知られなくていい。